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RADWIMPS騒動から中核派動画まで なぜ「愛国」「極左」とエンタメが急接近するのか?

2019年の論点100

2018/11/20
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他愛もない安倍首相のスタンプも……

 このような政治とエンタメの結びつきは、世界的な潮流である。中国には抗日戦争をテーマにした遊園地「八路軍文化園」や「遊撃戦体験園」が存在するし、北朝鮮では最高指導者を賛美する女性音楽ユニット・モランボン楽団が活動している。2016年のアメリカの大統領選挙では、候補者を滑稽に描写した動画やフェイクニュースが飛び交った。

モランボン楽団 ©︎AFLO

 日本でも、右派・左派問わず、政治的エンタメは広がるだろう。なかでも、インターネット上のコンテンツには注意が必要だ。いまやスマートフォンをポケットから取り出し、液晶パネルを軽く撫でるだけで、何の警告もなく、以上で取り上げたような政治的エンタメにつながってしまう。ワンクリックの「いいね!」で、賛意の表明もしやすい。

 2017年、自民党は期間限定でラインのスタンプを配布した。デフォルメされた安倍首相のキャラクターが、「異議なし!」「うんうん」「お疲れさま」「おめでとう」などと述べるというもので、これ自体は他愛もない。ただ、同じような仕組みが、もっと過激な政治的メッセージの伝達に使われないとも限らない。現に、フェイスブックやツイッターだけではなく、ラインやインスタグラムにさえ、政治系の宣伝・勧誘アカウントが揃っているのである。

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「政治的エンタメ」に対して「歴史」を防波堤にする

 われわれは、とめどない政治的エンタメの拡散にどのように対処すればよいだろうか。その答えのひとつは、歴史を防波堤として用いることだ。政治的エンタメのパターンは、それほど多様ではない。そのため、過去のさまざまな事例を知っておくと、「現在に応用すればどうなるだろう」「あの組織ならこう利用するかもしれない」と思考を巡らすことができるし、たとえ新しいものが目の前に現れても、「また過去と同じものがきた」「このメッセージには裏がある」などと気づきやすい。いわば、ワクチンとして、既存の政治的エンタメを利用するのである。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」愛国や政権批判がエンタメ界を席巻せんとする今だからこそ、あらためてこの格言を思い出したい。

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