昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

なぜ乳がん治療の現場では“日本人特殊論”が信じられているのか

日本人には海外のデータは当てはまらない?

2018/11/17

genre : ライフ, ヘルス

本来は閉経後の女性こそ注意すべき

 しかし、実際には高齢者も乳がんにはなるし、高齢者ほど死亡率も高まる。その傾向は近年特に顕著になっている、と渡辺医師は指摘する。

今年9月に亡くなった女優の樹木希林さん ©文藝春秋

「小林麻央さんのような著名人が乳がんになると、メディアがその若さをことさら強調するので、若年層には乳がんに対する警戒心が湧く一方で、もっと心配しなければならない中高年の世代が『若い人の病気だから私たちは大丈夫だろう』と根拠のない安心に浸ってしまい、検診を受けなくなってしまうケースが多いのです。でも、本来は閉経後の女性こそ注意すべき。“全身がん”と言っていた樹木希林さんも、最初は乳がんから始まっています」

 日本人に乳がんが増えたことの最も大きな要因は、食生活の欧米化だと考えられている。

「従来の日本食の中心にあった大豆タンパクや、魚由来の油やプロテインなどは、乳がんに対して抑制的に働くのに対して、肉中心の欧米型食生活は乳がんのリスクを高める。こうした日本人を取り巻く生活環境の変化を考慮しないで、“日本人は欧米人と違うんだ”と決め付ける医師が、いまだに少なくないことが不思議でならない」(渡辺医師)

©iStock.com

誤解その2「日本人の乳がんは予後がいい」

 乳がん治療の領域では、遺伝子の発現パターンによってグループ分けする「サブタイプ分類」が進んでいる。大きく5つに分類されるこのサブタイプごとに、「ホルモン療法単独」「抗がん剤とホルモン療法の併用」「抗がん剤と分子標的薬治療」など、最も効率的な治療法が存在するのだが、この分類ができたのは、そう昔のことではない。

「スイスのザンクトガレンで2~3年に一度、世界中の乳がん治療医が集まる国際シンポジウムがあります。乳がん治療におけるダボス会議のようなものですが、ここで提唱される内容は国際水準と考えられます。2011年のこの会議で、サブタイプ分類が提唱されたのです」

 それ以前は、“乳がん”という大雑把な括りで治療が行われていた。

「サブタイプで分類すると、Luminal AやLuminal Bといった比較的予後のいい、言い換えれば治療成果のいいタイプの乳がんが日本人に多いのは事実です。

 でも、これは日本人だから予後がいいのではなく、日本人にも予後の悪いサブタイプの人はいるし、欧米人にも予後のいいサブタイプの人もいる。サブタイプによる分類ができるようになったいま、人種で区別することに意味がなくなったのです。

 なのにいまでも『日本人の乳がんは予後がいい』という医師がいる。これはサブタイプ分類を知らないか、その意味を理解していない証拠です」(渡辺医師)

「あなたの乳がんは予後がいいタイプです」という表現ならわかるのだが……。