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誤解その3「日本人は抗がん剤に弱い」

 欧米人に比べて体格が小さい日本人は、抗がん剤を使った時の副作用も大きく出るので抗がん剤治療には向いていない――という考えの医師がいるという。手術前にがん組織を小さくすることで乳房を温存しやすくするなどの目的で行う術前化学療法にも否定的な見方をするようだ。

「たしかに昔は、化学療法を術前にしても術後にしても予後の治療成績は変わらない――という報告もありました。しかし、いまは抗がん剤やホルモン剤も飛躍的に進化しており、治療対象の乳がんはもちろん、すでに転移したがんを消すことも視野に入れられる時代です」

 1990年代に開発されたドセタキセルという抗がん剤がある。この薬は欧米人に対しては「体表面積あたりの基準投与量100mg」として開発されたのに対して、体格の小さい日本人には「60mg」で開発が進んだ。しかし、その後の研究で欧米人に対する100mgは多過ぎるということから75mgに、一方の日本人は60mgでは少ないということから75mgに――と基準投与量が変化していった。結果として欧米人と日本人の間に人種間格差はなかったことになり、日本人がとりわけ抗がん剤に弱い人種だという考えは否定された。

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人種間格差よりもサブタイプの分類が重要 ©iStock.com

自分の母親を乳がんで亡くしているケースが少なくない

 にもかかわらず術前化学療法に積極的でない医師の思惑は何なのか。

「日本人は欧米人のように乳房が大きくないので手術がしやすい、ということはあるようです。ただそれ以上に、患者側の“抗がん剤への恐怖心”がベースにあるのは事実でしょう。

 いま乳がんになる女性の世代は、自分の母親を乳がんで亡くしているケースが少なくない。その時代の抗がん剤治療は確かに大きな苦痛を伴うものだったので、その頃の記憶が抗がん剤を遠ざけようとしてしまうのです。加えて、抗がん剤に対してネガティブな姿勢の医師の発言を色々なメディアが流すことで、患者が必要以上に怖がってしまっているのも事実。だから外科医に『化学療法などしないですぐ手術をしましょう』と言われると、それに従ってしまうのです」