瀧波さんが思う、やっておいてよかったこと
──瀧波さんの体験から、これをやっておいてよかったと思っていることはありますか。
瀧波 終わりが設定されている状態になったら、「ありがとう」とちゃんと口に出して言うとか、ハグしたりとか、一緒に写真を撮ったりとか、いつもはできないことをやった方がいいなと思いました。友達同士でお酒を飲みに行って、別れ際に「バイバイ」ってハグするのは簡単にできるのに、親だと身構えちゃうというか難しいですよね。息子と父親なんて、娘と母親より500倍くらいハードル高いと思いますけど、死んだらできなくなっちゃうので、少しでもそういうことをしたい気持ちがあるなら、したほうがいいと思います。
──瀧波さんもお母さまとハグする場面を、漫画に描かれていましたよね。
瀧波 姉の家から帰るエレベーターのところで、時間にしたらほんの1〜2秒ハグしました。母とハグしたのなんて、子どもの頃以来で。なぜかお互いに「今だな」とタイミングが合った感じでしたが、もしあそこでハグしていなかったら、「もうちょっとああすればよかった」と後悔したかもしれないですね。
ハグくらいなんということもないと思うんですが、日本人なので、なかなか家族だと超えられない壁というか、照れくさい気持ちが先に出ちゃうんですけどね。
──親に「ありがとう」と言うのも、なかなか照れくさくてできません。
瀧波 言葉で伝えるのが難しい人はハグで。どっちもハードル高い二択ですけど(笑)。でも、「ありがとう」って言われてイヤな気持ちになる人はいないし、子どもに抱きしめられて「触るな!」という親もいないと思うんですよ。親も自分も満たされると思うし、なにより、後から「あの時やっておけばよかった」と後悔することを考えると、たぶんいつまでも悲しいと思うので、別れ際とか自然なチャンスを生かして、ぜひ。
撮影=山元茂樹/文藝春秋
たきなみ・ゆかり/漫画家。1980年北海道札幌市出身。日本大学藝術学部写真学科卒業。著書に漫画『臨死!! 江古田ちゃん』全8巻、『あさはかな夢みし』全3巻、『モトカレ マニア』1~2巻(共に講談社)、エッセイ『はるまき日記 偏愛的育児エッセイ』(文春文庫)、 『女もたけなわ』『30と40のあいだ』(共に幻冬舎文庫)、『オヤジかるた 女子から贈る、飴と鞭。』、『ありがとうって言えたなら』(共に文藝春秋)など。