先日、佐久間良子に取材する機会があり、改めてその出演作品を観返してみた。そこで気づいたことがある。
女優としての評価を高めることになった映画『人生劇場 飛車角』『五番町夕霧楼』(いずれも一九六三年)をはじめ、演じてきた役柄の多くに共通項があるのだ。それは、過酷だったり理不尽だったりした運命に翻弄されていく女性――である。哀しみに悲嘆し、苦悶しながら必死に耐える姿の美しさ。ここに佐久間の女優としての魅力が凝縮されているように思えた。
今回取り上げる『病院坂の首縊りの家』もまた、そんな佐久間の魅力を心ゆくまで堪能できる作品である。
市川崑が監督し、石坂浩二が名探偵・金田一耕助を演じた一連のシリーズの最終作にあたる本作ではこれまでと同様に、陰惨な連続殺人事件と、その裏側で巻き起こる当事者たちの悲劇が描かれている。
舞台となるのは、「病院坂」と呼ばれる地域。ここには法眼病院とそれを営む法眼家、そして法眼家御用達の写真館と一軒の空き家があった。この空き家でジャズバンド「アングリー・パイレーツ」の一員・敏男(あおい輝彦)の生首が吊るされているのを写真館主・本條(小沢栄太郎)と息子(清水紘治)らが発見するところから事件は始まる。自らの命が狙われていることを疑う本條の依頼で写真館に出入りすることになった金田一が、真相究明に乗り出す。
佐久間が演じるのは、法眼家の当主・弥生。凜とした美しさを湛えながらも、時おり哀しげな陰が垣間見える――佐久間にピッタリの役柄だ。
物語が進んで弥生の背負ってきた理不尽すぎる宿業が明らかになっていくにつれ、佐久間の放つ陰は深まっていく。
敏男と妹の小雪(桜田淳子)の母親・冬子(萩尾みどり)はかつて法眼家を訪ねた際、弥生の娘・由香利(桜田二役)に罵倒され追い返され、空き家で首を吊って自殺した。冬子から譲り受けた小雪の風鈴を見て、弥生は冬子が訪ねてきた真の理由を知る。その時の哀しみにくれた表情。そして金田一に法眼家の忌まわしい宿命を突き付けられる終盤に見せる、逃れられない過去の悔恨に苦しみ抜いた表情。いずれも絶品で、理不尽な悲劇性が見えてくるほど皮肉にも悲壮美が高まる、まさに本領発揮といえる芝居だった。
取材時、お会いした佐久間はあと数か月で八十歳を迎えようとしているにもかかわらず、本作に出演時とほとんど変わらない美貌を保っていた。まだまだ、この人は運命に翻弄される役を様々に演じていくのだろう。その姿、しかと見届けていきたい――思わず見惚れながら、ふと思った。