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トップ選手でも「難しすぎて入らない」

 多くのトップ選手がこの打法を使わない理由は、言うまでもなく難しすぎて入らないからだ。実際、スウェーデンオープンの翌週に行われたオーストリアオープンで伊藤は2回戦で敗退している。神ならぬ伊藤が奇跡のプレーを再現し続けることは不可能に近い。当のスウェーデンオープンでも、準々決勝の劉詩ウェン戦の前半は伊藤のバックハンド強打がことごとく入らず、ほとんど負けかかっていた。もしも第5ゲームの8-8からの劉詩ウェンのサービスミスがなかったら、11-11からの伊藤のエッジボールがなかったら、伊藤は1-4で負けていたかもしれないのだ。

©JMPA

 しかし伊藤はそこから覚醒し、準決勝、決勝と理不尽なまでのバックハンド無回転強打を連発して優勝した。それは世界卓球史上、誰も到達したことのないプレーだった。あのプレーを再現できたなら、どんな対策も無意味となる。あの試合の伊藤に勝つ方法はない。

伊藤の敵は「自らの打法の難しさ」

 伊藤のバックハンド無回転強打にとって真の脅威は、相手が対策をしてくることではない。わずかなラケット操作の狂いがミスにつながるという打法の難しさそのものだ。

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 しかし伊藤には、巧妙なサービスと意外性のあるレシーブ、回転量の読みづらい表ソフトでのバックハンドドライブといった安定した技術がある。それらだけで早田ひなと組んだオーストリアオープンの女子ダブルスで中国ペアを破って優勝するほどの極めて高いレベルだ。

 それらによってゲーム全体を支配しつつ、やがてそのバックハンドに卓球の神が降りてくるのを待つ。それをコントロールできるようになったとき、伊藤は史上最強の選手となるだろう。それを目撃できるかもしれない幸運な時代に我々は生きているのである。