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「ウィ・ウィル・ロック・ユー」削除 3つ目の「ウソ」の意味

「観客」の問題をもう少し見ていこう。クイーンが「観客との交流」を重視していたことは映画内でも繰り返し強調されている。ライヴ・エイドの再現シーンでは、その「観客」の範囲を映画の観客にまで拡張しようと試みているのである。じっさいのライヴ・エイドで演奏された「ウィ・ウィル・ロック・ユー」を再現シーンから削除するという劇中の「嘘」は、実はこの読みを裏付けてくれる。

「ウィ・ウィル・ロック・ユー」の誕生を描いた本編映像 


 2度の足踏みと手拍子によって観客のライヴへの参加を可能にした「ウィ・ウィル・ロック・ユー」のパフォーマンスは、劇中でも作曲過程からライヴの成功までを詳しく描き出している。だからこそ、ライヴ・エイドのシーンからはこの曲が削除されたのである(もう一度繰り返すのは蛇足になってしまう)。もちろん、映画の尺の問題はあるだろうが、そこで真っ先に切られたのが「ウィ・ウィル・ロック・ユー」であったことは必然と言っていい。

「ウィ・ウィル・ロック・ユー」を埋めたオリジナルシーン

 なぜなら、映画は「ウィ・ウィル・ロック・ユー」を消去する代わりに、フレディの発声による「エーオー」のコール&レスポンスによって「観客との交流」というテーマを十分に展開しているからである。もちろん、このパフォーマンス自体はじっさいのライヴ・エイドでも行われているが、映画はこのパフォーマンスを劇中のほかのシーンと連関させているのである。劇中で「ウィ・ウィル・ロック・ユー」をライヴ演奏した際、フレディは最後にこのコール&レスポンスのパフォーマンスを短く2度だけ行なっている。

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 この「エーオー」は、フレディがエイズの診断を下された際、廊下ですれ違った別の患者(おそらくはフレディのファン)の呼びかけに応えるという形で変奏されてあらわれる(これは映画オリジナルのシーンである)。最後のライヴ・エイドのシーンでフレディが見せる圧巻の「エーオー」は、直前に置かれたこのささやかなコール&レスポンスを大掛かりに反復したものなのである。エイズの告知シーンでファンからの呼びかけに小さく応えたフレディが、今度はファンに向けて全身全霊のパフォーマンスで呼びかける側にまわっているのだ。