昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

なぜ問題のツイートをしたのか?

――大小を問わず、事件というものは人間関係を変えるものですよね。処分後、岡口さんの環境は変わりましたか?

岡口 特に変わりませんね。むしろ励まし系の人に囲まれている感じさえします。私の所に別の部の部長がわざわざ来て「がんばれよ」って言ってくれたり、裁判所職員の方から激励の手紙をいただいたり。ありがたいですね。

――それにしてもなぜ、ご自身が担当していない「犬の返還訴訟」についてツイートしたのでしょうか。犬を放置した元飼い主と拾った飼い主側が「どちらの飼い犬か」を争った裁判で、勝訴したのは原告側の元飼い主。岡口さんの投稿は、その原告の感情を傷つけたとして処分が決定されたわけですよね。そのツイートは〈公園に放置されていた犬を保護し育てていたら、3か月くらい経って、もとの飼い主が名乗り出てきて、「返して下さい」。「え?あなた?この犬捨てたんでしょ? 3か月も放置しておきながら・・・」「裁判の結果は・・・」〉というものでした。

 

岡口 私に原告を非難する意図など全くありませんでした。私のフォロワーの多くは法曹関係者ですから、基本的に私はその人たちに向けて投稿をしています。この訴訟と判決は「放置した犬の所有権」という論点を議論するために非常に参考になる「事例」だと思ったんです。その記事は、ちょっと前の裁判例を扱ったものですし、当事者の個人情報も完全に隠していました。それで、より多くの人の目に止まるように、あえてああした文章を乗せて、この訴訟について紹介した新聞記事のリンクを貼ったんです。

――あくまで法律を議論するための「事例」として載せただけと。

岡口 私は法律関係者なら読んでおいたほうがいい記事があったら、目を通した後にパパーッとツイートしておく習慣があるんです。ですから一方に対して何らかの評価をしようとか、そんなことまで考えていません。

 

法律家は「事例化」することに優先価値を置く

――誰かを傷つけることになるとは思わずに、とにかく法律問題を考えるための事例として挙げたのだということですね。

岡口 これは法律家としての一般論ですが、関係者を匿名にすることで事件の概要や裁判の経過を「事例化」してみんなで議論しましょうというのは、普通のこと、許されていることなんです。関係者が傷つくという可能性より、法律の議論が進むことに優先価値を置いた考え方です。プライバシーを侵害したり、名誉毀損するような形で事件や訴訟を紹介することは、当然ながら違法です。しかし、こういう事件があった、訴訟があったということ自体を知らせること、表現することを萎縮させるようなロジックがあってはならないと思うんです。私に対する今回の処分は、まさしくその表現を萎縮させるようなロジックだと感じています。

 

――岡口さんの投稿したメッセージだけ読むと、元飼い主を非難しているように読めてしまいますよね。「え?あなた?この犬捨てたんでしょ?」のあたりは特に。その辺は、一方に偏っていると想像しませんでしたか?

岡口 先ほども言った通りで、法律問題としての問題点を際立たせようという意図しかありませんでした。この判決は、一般的な想像とは違う結論――つまり放置されていた犬を拾った飼い主側に「犬の所有権」が移転しているのが普通でしょう、という想像とは逆の結論――に至っているところがポイントで、そこを浮き立たせようとして、ああいう文面を書いたんです。そこに誰かを非難するような意図はありません。