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なぜ私は西洋医から漢方医に転向したのか

漢方医 永井良樹医師インタビュー(後編)

2018/12/08
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西洋医学で「お手上げ」とされた病気にも効果があった

 これまでよそでは「お手上げ」と言われたような病気を抱えた患者さんを多く診てきました。高齢で手術ができないという心臓弁膜症の患者さんや厚労省が難病に指定しているベーチェット症候群、しびれや浮腫、非結核性抗酸菌症、慢性気管支炎や慢性膀胱炎、腫瘤、高血圧や糖尿病などの生活習慣病などありとあらゆる病気に漢方をもちいてきました。

 最近、私が関心を持っているのが深部静脈血栓症による下肢浮腫です。下肢から心臓に向かう静脈の還流が妨げられるため下肢全体に浮腫が生じ象の足のようにパンパンに腫れるのです。使用する漢方薬は、「痿証方合八味地黄丸料合五苓散料」(いしょうほうごうはちみじおうがんりょうごうごれいさんりょう)という煎じ薬です。このような浮腫は西洋医学では、リンパの流れをよくするようにマッサージを行ったり、圧の強いストッキングなどを着用する程度しか治療方法がありません。西洋薬の内服も効果を望めないのが現状です。しかし、漢方薬を用いた場合、症状が改善しているのです。

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がんにも漢方薬が効く?

 東洋医学は、人間そのものを診る医学なので、検査所見を重視する西洋医学と大きく異なります。漢方薬も、どのようなメカニズムで効いているのか、まだまだわかっていないことがたくさんあります。そのため、数値化したものの集合によって成り立つ西洋医学的価値観からすれば、こうした医療を「科学性に乏しい」と思うのは仕方のないことかもしれません。私自身も漢方を専攻するようになって25年経ちますが、まだまだ漢方は不思議なことが多く、奥深さを感じています。最近、がん治療に伴う副作用や合併症、後遺症に漢方薬が有効だということが様々な研究で明らかになってきましたが、がんそのものにも漢方薬が効くのではないかと言われるようになっています。

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 西洋医学ではここ数年「個別化医療」が叫ばれるようになってきました。これは、患者さん一人ひとりの体質や病気の特徴にあった治療を行おうというものですが、東洋医学の世界でははるか昔からやってきたことです。その点についても、また計り知れない未来を内蔵している点においても漢方は先端医学といえるのです。東洋医学は、西洋医学の目覚ましい進歩の陰に隠れがちですが、「治療の選択肢のひとつに漢方」という考え方はもっと浸透していくべきなのではないかと思うのです。

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