西洋医学では対応できない難病が、漢方で治ることがある――。
今年6月、世界保健機構(WHO)は、国際疾病分類を約30年ぶりに改定、漢方や鍼灸を含めた「伝統医療」の項目が新たに加えられ、漢方医学が改めて脚光を浴びました。近年、西洋医から漢方医に転じたり、漢方を併用した西洋医療を施したりする医師も増えています。
その「先駆け」とも言えるのが、日本赤十字医療センターで「漢方外来」を受けもつ永井良樹医師。四半世紀以上漢方治療を専門とし、過去には香淳皇后(当時皇太后)の侍医を務めた経験もある永井医師に、「漢方治療が効果的な病気」「西洋医学中心の日本の医療の問題点」を伺いました。
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寿命の短い西洋薬への疑問
私は現在、日本赤十字社医療センターの漢方外来に勤務する医師ですが、2015年までは東大病院の漢方外来にて大勢の患者さんを診てきました。
1974年に東大医学部を卒業し、1977年に東大病院の第一内科に入局、消化器内科を専門にし、消化器病学の研鑽につとめました。したがって最初から漢方の道へ進んだわけではありません。最初は西洋医として、外来や入院の患者さんを診ていました。西洋医学における治療は外科手術と薬物治療が中心ですが、私は内科だったため、もっぱら薬物治療を行っていました。当時は日本で開発された薬は少なく、多くの医師は欧米で開発された薬を、メーカーに言われるがまま使う毎日でした。メーカーの言葉を鵜呑みにして使っている医師も少なくなく、それによって患者さんが思わぬ副作用で苦しんだり、薬害訴訟にまで発展することもありました。日本の医療事情は今でも変わりません。
また、新しい薬が次々に開発されていく世界です。最近でも、がんに対する薬はさまざまなものが開発されています。もちろんそれはそれでよいことではあるのですが、新しいものが次々に出てくるということは、前に使っていた薬は劣っているところがあり、役に立たなくなってしまうということです。ですからせっかく医者になったのに、自分の力で治しているという実感はほとんどありませんでした。
限られた病気しか診られない医師たち
また、医学はどんどん細分化され、それにつれてそれぞれの医師が専門化していきました。難しい疾患を診断したり、専門性の高い手術を行うのであれば、それは好ましいことではありますが、それとは裏腹にどの医師も限られた疾患しか診ることができず、また薬も限られたものしか使いこなせない状態になってしまうことは問題だと感じていました。医者になったからには、もっと自由に、もっと様々な種類の病気の人を診るのが当然ではないか。例えば、無医村に行ったときとか、また海外の貧困国で、また災害時などには、専門性に特化した医師のままでは全く役に立たないと思っていました。専門医を養成することに主眼を置いた現行の制度に疑問を感じ、総合的に患者さんを診たい、そういう思いを抱いていたときに出会ったのが漢方だったのです。