「熱いもの」や「刺激の強いもの」によるダメージ
機能的には単純な食道だが、構造は複雑だ。
食べてすぐに横になっても、もっといえば逆立ちしても、食べたものはちゃんと胃に届く。つまり、食べたものは引力で胃に落ちるわけではないのだ。
「食べて飲み込んだものは、食道の壁が“蠕動運動”という動きをすることで内部を押し出すようにして移動させます。この動きは非常に複雑で、自律神経に支配された運動。つまり、人間が意識して食道を動かすことはできません。そのため現在のテクノロジーでも“人工食道”は作られていません」
現状、食道がんなどで食道を切除した場合、胃を喉までもち上げて直接つなぐか、大腸などを移植して食道代わりに使うことになる。
食道には、熱さや冷たさを感じる感覚は発達していない。のど元過ぎれば熱さ忘れる――のはそのためだ。
しかし、感じないだけでダメージは受ける。特に「熱いもの」や「刺激の強いもの」によって食道にもたらされる被害は甚大だ。
食道がんには、食道の粘膜にできる扁平上皮がんと、あとで触れる逆流性食道炎で編成した細胞からできる腺がんの2種類があるが、日本人の食道がんは圧倒的に扁平上皮がんが多い。これは「熱いもの」や「刺激物」の影響が大きいと考えられている。
「統計を取ったわけではないけれど、食道がんの患者さんに“酒好き”が多いのは事実です。しかも飲む量が半端ではない。毎日缶ビールを8本とか10本とか平気で飲んでいたりする。もちろん、アルコール中毒が疑われる人も少なくない」
積極的に食べることを心がけたい
岡部医師によると、アルコールが好きで食道がんになった人がよくする質問があるという。
「手術をすればまた酒が飲めますか?」
そんな時、やさしい岡部医師は、こう答えるという。
「まずは手術をして、経過を見ながら考えましょう。食欲が戻ってくれば、お酒を飲みたいと思わなくなるかもしれませんよ」
アルコールによる食道へのダメージを減らすには、飲む量を減らす、飲むにしてもアルコール度数の高い飲み物を避けることが重要だ。
この時、積極的に食べることを心がけたい。食べることで飲む量はある程度は制限できるし、食べることでがんの抑制につながる栄養素を得ることにもつながる。
逆に食べずに飲むと、アルコールの吸収が早くなり、肝臓でその分解をする際に発生するアセトアルデヒドという毒性を持つ物質が増えてしまう。これが飲み過ぎた時に起きる頭痛や吐き気、二日酔いの元凶なのだ。
飲酒時は、野菜から食べるのが理想的。
「カロチンやビタミンCなどの栄養素を摂取することが食道がんを抑制する、つまり予防効果があることが分かっています。私は、飲み会に行くときは、出かける前にチーズやナッツなどを少し食べて“すきっ腹”を防ぎます。その上で、店では最初にサラダなどの野菜モノを食べることを実践しています」
「食べる前に飲む」よりも「飲む前に食べる」べきなのだ。