人間の臓器の中には、つねに心配され、意識される臓器もあれば、重要な働きを担っているわりに、日頃あまり思い出されることのない臓器もある。

 あなたが最後に「食道」のことを考えたのはいつですか?

 毎日お世話になっているのに、滅多に意識にのぼることのない健気な臓器……。

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 そんな食道のこと、たまには考えてあげて下さい。

「胸焼け」は食道で起きている炎症による症状

 緊張で胸が高鳴れば「心臓」のことを思い出す。スマホの見過ぎで視界がぼやければ「目」のことを心配する。

 でも、「食道」のことを思い出すことはあまりない。

 同じ消化管でも、食べ過ぎれば「胃」に意識が向くし、ストレスで下痢になれば「腸」のことを心配する。

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 胃と食道は直接つながっているのに、人は胃のことばかり気にかけ、食道のことは見て見ぬふりだ。

 時々飲み過ぎた時などに「胸やけ」を感じることがある。あれは食道で起きている炎症による症状なのだが、なぜか人は胃の心配をして、胃薬などを飲んだりする。そもそも「胃薬」があるのに「食道薬」はない。食道は不憫だ。

食道がんは最も大掛かりな手術の一つ

 しかし、そんな食道にも病気は起きる。代表的なのが「食道がん」だ。

 一般的な外科手術の中で、食道がんは最も大掛かりな手術の一つとされる。お腹、腋の下、首の3カ所を、15~30cmほど切開する大手術で、短くても8時間、長いと12時間を超えることも珍しくない。当然患者の受ける身体的なダメージは大きいが、手術をする外科医も大変だ。

 近年は胸腔鏡という内視鏡を使った低侵襲手術(患者が受ける身体的負荷の小さな手術)を導入する病院も出てきてはいるが、全国的に見るとまだ少ない。そんな事情もあって、医師の中にも「できることなら食道がんにはかかりたくない」という人は少なくない。

岡部寛医師

 そんな、日本ではまだ少数派の「食道がんの胸腔鏡手術」を得意とする、新東京病院(千葉県松戸市)消化器外科部長の岡部寛医師に、食道について解説してもらった。

「食道は食べたものを胃に送り込むことだけの“単なる管”で、消化などの機能はありません。食べ物が通らないときはぺたんこで、モノが通る時だけ膨らむ構造。長さは成人で約30cm、直径は広がった時でも2cm程度。意外に狭いんです」