胃酸が食道に逆流すると……
もう一つ、食道がんの温床となる病態が「逆流性食道炎」だ。
これは胃の内容物を溶かすために分泌される胃酸が、食道に逆流することで起きるもの。胃は胃酸に耐えられる構造になっているが、食道の造りは胃酸が逆流してくることを想定していない。食べたものを胃に送り込むことだけを目的としている食道にとって、胃酸の逆流は厄介ごとでしかないのだ。
これによって食道に炎症が起きると、冒頭で触れた「胸やけ」が起きる。そして、これが食道がんの原因にもなるのだ。
しかも、面倒なことにこの胃酸は、気付かないうちに気管に入り込み、肺でも炎症を引き起こすことがある。就寝中の胃液や唾液の誤嚥から、当人が気付いていないうちに起きる肺炎なので「不顕性誤嚥」と呼ばれるが、高齢者の肺炎のうちじつに7割がこのタイプの肺炎だという。
寝る時の体の向きが大きく関係している
「寝ているうちに胃酸が食道を逆流して喉に達し、気付かないうちに誤嚥して肺に入ってしまうのです」
と語るのは、池袋大谷クリニック(東京都豊島区)院長で呼吸器内科が専門の大谷義夫医師。続けて解説する。
「じつは、寝る時の体の向きが大きく関係しています。寝る時に左向きで寝れば、噴門部(食道と胃の接合部)が胃の内容物より上になるので逆流しにくいけれど、右向きで寝ると胃酸が食道に流れ落ちやすくなってしまうことが、ガイドラインにも記載されています。
胸やけなど逆流性食道炎の症状がある人は左向きで寝ることをお勧めします。逆流性食道炎は誤嚥性肺炎以外にも、咽頭炎、喘息、睡眠障害とも因果関係があるので、警戒するに越したことはありません」
大谷医師は、寝る向きはもちろんだが、逆流性食道炎を防ぐ意味でも、「食後1時間半は横にならないこと」を強く奨励する。
年末年始は、アルコールを飲む機会が増え、鍋物などの熱いものを食べる機会も増え、ゴロゴロと横になって過ごすことも増える。それを見越して製薬各社は胃薬や肝臓を保護する薬のCMを大量投入する。
そんなCMを目にした時、胃や肝臓ほどチヤホヤしなくてもいいから、ちょっとだけでも食道のことを気遣ってやってもらえれば、と思います。