天皇陛下の生前退位は、2019年に日本が直面する重要課題である。新天皇はどのような「お言葉」を発するのか、安倍政権が打ち出す改憲との関係は――。池上彰氏と佐藤優氏が、皇室の問題に斬り込む。(『文藝春秋オピニオン 2019年の論点100』より)
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皇太子の「お言葉」に注目
池上 私が来年、注目しているのは、皇太子が5月に新天皇として即位したとき、どのような「お言葉」でメッセージを発するのかということです。当然、ご本人がある程度希望をおっしゃって、それを宮内庁との間で練り上げたものが出てくると思いますが、政治への関与というところで、ぎりぎりのせめぎあいがあるはずです。
皇太子には、天皇の意思を何とか継いでいきたいという思いが強くある。そして、その中でも、憲法を守る、ということは大きいと思います。
たとえば、戦後70年にあたる2015年の誕生日の会見で、皇太子はこう述べました。
「私は、常々、過去の天皇が歩んでこられた道と、天皇は日本国、そして国民統合の象徴であるとの日本国憲法の規定に思いを致すよう心掛けております」
一方、天皇は1989年の即位後朝見の儀で、こう述べています。
「ここに、皇位を継承するに当たり、大行天皇の御遺徳に深く思いをいたし、いかなるときも国民とともにあることを念願された御心を心としつつ、皆さんとともに日本国憲法を守り、これに従って責務を果たすことを誓い、国運の一層の進展と世界の平和、人類福祉の増進を切に希望してやみません」
これまでなら天皇が憲法を守ると発言しても、ごく普通のこととして受け止められてきました。しかし、安倍政権が、今の憲法には問題があるとして改憲を打ち出してからというもの、天皇が護憲派の象徴のようになってしまった。そのような環境の中で、憲法擁護のニュアンスをどれくらい強く打ち出してくるのか。安倍政権が、それに対して圧力のようなものをかけてくるのかどうか。大いに注目しています。