保守や右派についても考え直す必要が
池上 ネトウヨと呼ばれる人たちが、天皇の護憲的な発言に対して、「天皇は反日である」などとネットに書き込んだりしているというのも驚きですよ。保守とか右派とかいう存在についても、もう一度考え直す必要がありそうです。
それに、安倍政権は彼らの歓心を買い、求心力を維持するために、改憲、改憲と言いますが、実際には着手できそうもないでしょう。
佐藤 むずかしいでしょうね。
池上 にもかかわらず、それを言い募ることで、国内外にさまざまな波風を立てていることも問題なのではないでしょうか。
新天皇は琉歌を詠まれるのか
佐藤 あと一つ、新天皇が「琉歌」、つまり沖縄の歌を詠まれるかどうかにも私は注目しています。天皇、皇后両陛下は琉歌を詠まれましたが、これは日本と沖縄の国家統合において非常に重要な意味を持っていました。
沖縄に国立劇場ができた際、こけら落としの「執心鐘入」という沖縄の伝統劇をご覧になって、天皇はこう詠まれています。
「国立劇場 沖縄に開き 執心鐘入 見ちやるうれしや」
琉歌は基本、8886のリズムで詠まれます。和歌が57577であるのとそこが違う。
天皇は皇太子時代に沖縄を訪問されたとき、いわゆる「ひめゆりの塔事件」というゲリラ活動に遭遇しました。その直後にも、こう詠まれています。
「花よおしやげゆん 人知らぬ魂 戦ないらぬ世よ 肝に願て」
これは、「花を捧げます 人知れず亡くなった多くの人たちの魂に 戦争のない世を心から願って」といった意味になります。
池上 若いときから、そういった歌を詠みこなしていたというのは驚きです。
佐藤 琉球文学・文化研究の第一人者だった外間守善さんらに学んだのだと思います。
そして、反天皇制論者がどんな理論を組み立てたとしても、この琉歌の力によって崩され、天皇に吸収されてしまう。
ですから、沖縄にとって、新天皇が琉歌を詠むかどうかは、非常に重要な問題なのです。
池上 来年は日本にとって、本当にたいへんな年になりそうですね。
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