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一冊一冊に込められた思い

 ちくさ正文館といえば人文書と文芸書の棚が有名だ。文芸書というと小説やエッセイを中心とした文学一般を指すことが多いが、ここでは、文芸評論と詩歌に特化している。特に、短歌の品揃えは並外れている。永田和宏や河野裕子、俵万智や穂村弘、東直子といった人気歌人はもちろん、九州の出版社書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)が若手登竜門として発行している「新鋭短歌シリーズ」、現代短歌の潮流を作った岡井隆、加藤治郎から、さらに弟子に当たる野口あや子に至るまで、幅広く、しかも流れに沿って陳列されている。

ちくさ正文館を象徴する文芸書と人文書の棚。
短歌の系譜をたどれる売り場。

 短歌の棚は、説明していただいて、流れとそこに込められた思いがわかったのだが、哲学書も歴史書も、古田店長が深く関わっている映画や演劇でも、それぞれ、これは外せないキーとなる本があって、関わっている人がいて、一冊一冊で売り場が作られているのだろう。映画や演劇、音楽書の売り場には掲示板があって、公演やイベントのチラシが貼ってある。以前は売り場だった2階のスペースを使って、イベントや展示会をすることもあるという。なによりも本一冊一冊の並びから、若い映画人、演劇人、著者、編集者に対する応援の気持ちが伝わってくる。

公演のチラシを通じて、演劇のコミュニティとつながっている。

 詩について、演劇について、名古屋の文化について、本について、それぞれの話題が、単なる知識や事実ではなく、自らも参加した体験であることで、より具体的、立体的な魅力がある。気がつくと2時間が経っていた。

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 いい本屋のある町はいい町だ。いい本屋はいい読者を集め、いいコミュニティが本屋を育てる。いい読者とともにあるちくさ正文館を訪ねて、改めてそう思った。

詩について、演劇について、本について、熱く語る古田店長。
古田一晴店長、『詩集 風景』とともに。

【読者にオススメ】

 古田店長のオススメ本は、春日井建さんの『詩集 風景』(人間社)。2004年に亡くなった歌人、春日井建さんの没後10年に、刊行された詩集。この詩集の地元名古屋の出版社での刊行と、刊行を記念した短歌朗読とピアノによるコンサートに立ち会えたことに、歴史的な節目を感じるという。

ちくさ正文館本店
住所 愛知県名古屋市千種区内山3-28-1
営業時間 10:00~21:00 日・祝日は20:00まで
URL https://chikusashobunkan.jimdo.com/