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「周平さん、きっと今日から打ちますよ」

「(高橋)周平も頭と体幹がずれていた。振りに行くときに前かがみになって、左肩が突っ込む。それでは空振りで済むボールも当たってしまう。セカンドゴロの山や」

 5月6日の試合前、高橋を指導した。

「試合の打席では必死で技術は考えられない。形を意識して体に染み込ませるにはティーバッティングが一番」

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 斜めや真横。高めや低め。速めや遅め。立石コーチの多種多様なトスを高橋は一心不乱にミートした。

「修理工場、いらっしゃいましたね。周平さん、きっと今日から打ちますよ」

 すでにメンテナンスの恩恵を受けていた京田陽太が笑った。その夜、3安打。翌日、4安打。キャプテンに笑顔が戻った。

今季からチームキャプテンを務める高橋周平 ©文藝春秋

 なぜここまで教えられるのか。

「ベンチよ」

 キョトンとする私に続けた。

「ベンチでレギュラーのプレーを見てたんですわ。あんな特等席はない」

 現役時代、立石コーチは目を皿のようにして、超一流選手の一挙手一投足を凝視した。あまりに熱心すぎて、試合前の敵チームの打撃練習をユニフォーム姿のまま見学したほどだ。

「ケージの後ろで見せてくださいと頼んだら、『よく見とけ』と言ってくれましたわ」

 落合博満はその一言だけを残して、黙々と美しく白球を打ち返した。

「落合さんはライト線の打球がスライスしない。よく見ると、軸足に根が生えているかと思うほどブレない。あと、右手の使い方が独特。打ち方は分かった。でも、できない。とてつもない練習量が必要だとも分かったんや」

 天才打者から具体的な言葉はなかった。だから、見て学んだ。盗んだ。

「引退間際に2軍の試合で広島市民球場のライトにホームランが打てたんですわ。あれは嬉しかった」

 助言する上での心構えを聞いた。

「選手を困らせないこと。できないことを言うても、あかん。良いときはこう、今はこう、だから、元に戻そうか、というのが基本」

 さらに続けた。

「あくまで長所を伸ばす。良いものを持っているからプロに入る。でも、厳しいプロの世界ではできない部分が目立つ。すると、いつの間にか良いものも消える。それが一番もったいない。中日にええ選手はいっぱいおるよ」

 歩く修理工場、立石コーチ。彼は今日もノックバット片手に笑顔で選手にそっと近づく。ベンチで蓄え続けたノウハウは今、生きている。

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