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あだ名は大王、心は謙虚

 ロンロンはCPBL入り3年目にして打率4割を二年連続記録、2017年には台湾人初の三冠王も達成した、正真正銘のスターである。しかし決してエリートではない。プロ入り前、チャイニーズタイペイ代表選出歴がない。ご本人もそれをコンプレックスに感じてきたようだ。それもあって、「大王」と名を馳せた今でも謙虚なのだろうか。

 大好きな、ロンロンの謙虚すぎるエピソードがある。とある野球関係者に聞いた。

 移籍直後、守備練習を終えたあとスタンドにボールを投げ込む、というファンサービスを把握していなかったロンロンは、ボールを持ったままオロオロしていた。それを見た某選手が「スタンドに投げるんだよ」と教えたところ、「君が投げてあげて。そのほうが喜ぶよ」と言って渡してしまったという。その後「これでお前のファンが減って、俺のファンが増えたぞ」とジョークでからかわれたそうだ。もはや謙虚さのみならず、日本に来て間もない25歳の青年の心細ささえ読み取れる。わたしはこれを聞いたとき、「ロンロンになんとかして伝えなきゃ! 日本にもあなたのファンが沢山いることを!」と使命感に駆られたものである。ちなみにわたしは普段独りで観戦することが多いためあまりグッズを着用しないのだが、その次の試合から、「ワン♡」と書かれた写真付きの団扇(鎌スタで買った)を掲げて応援するようにした。

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「ワン♡」と書かれた写真付きの団扇 ©河野万里奈

台湾のファンが温かい

 5月、わたしのSNSのフォロー通知が鳴りやまない日が続いた。ほとんどが台湾の方々だった。何事かと思ったら、どうやら前述の「#王加油bot」ツイートが海を渡り、「王柏融のことを大好きな日本人歌手がいるらしい」「大王の怪我が早く治るように台湾そばを食べたらしい」「“融融”的女歌手」と台湾のニュースになっていたとのこと。感謝と応援の意をツイートすると、予想外の返信が寄せられて驚いた。皆、口を揃えて「王柏融を応援してくれてありがとう」と言うのだ。わたしは勝手に応援しているのに。台湾のファンの方々からしたらファン歴だって浅いのに。むしろこちらこそ応援させてくれてありがとう、という気持ちなのに。

 今ではロンロンが活躍するたびに現地のTV中継画像付きでメッセージをくれる方もいる。挨拶代わりに「王!」とメッセージをくれる方もいる。そんな交流をするたびに、ご親族が王柏融を呼ぶときのニックネーム「ロンロン」をあえて採用し、「何が何でも大活躍させる」と誓った栗山監督の気持ちをほんのわずかに体感する。ロンロンは台湾の宝なのだと知る。

「ファンは自分を映す鏡」これはわたし自身が歌手として大切にしている言葉でもある。ロンロンと台湾のファンの方々に触れて、この言葉の説得力は増した。

 わたしもファンとして、アルプスの天然水のようなピュアな応援で、ロンロンのプレッシャーや疲労を少しでも洗い流したいと思う。

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