小野コーチが明かす起用基準
登板の中で平井を成長させる一方、起用基準について小野コーチはこう明かした。
「今の段階ではたぶん3連投はさせていない。2連投までで終わらせている。それで中を空けるという使い方をしていると思いますよ。これから後半戦で連投があるだろうから、2イニングじゃなく1イニングずつ行こうかという考えでやっています」
実際には、3日連続登板は4月23〜25日のロッテ戦であるが、その1度のみだ。2試合に1度のハイペースで起用する一方、一定の考慮はされている。
ただし問題は、「平井プロ」とファンに言われるほどのハイパフォーマンスがシーズン最後まで持つのか、だ。
6月29日のオリックス戦で、6対0で迎えた8回の1イニングを無失点に抑えた投球について、平井は「内容が0点以下。採点できないレベル」と振り返った。無駄な四球などでピンチを招いたが、交流戦終盤から状態が良くないという。「疲労は?」と聞くと、「関係ない」と即答した。
翌日の試合前練習で腕の振りと体の回転のタイミングを調整した結果、7回2死2塁のピンチで登板し、「回跨ぎ」で8回まで無失点。投球メカニクスを見直したのは、小野コーチと西口文也投手コーチの指摘もあったという。そうして前日より投球内容が改善された一方、7回のピンチでマレーロを二塁ゴロに抑えたのはフォークが抜けたもので、「結果はたまたま」と振り返った。
30日のオリックス戦後、再び小野コーチを直撃した。平井は交流戦終盤からコンディションが良くないというが、どう感じているのか。
「多少疲れは出ているだろうけど、我々はあくまでプロフェッショナルで、そういう自己管理をきちんとやらないと。求められたところで応えていくのがピッチャーの仕事なので。そこは厳しいかもしれないけど、そういう立ち位置にいるから、しっかり自己管理が必要になってくると思います」
西武の投手運用は昭和の頃から進歩しているのか
個人事業主のプロ野球選手は、自己管理をできなければ一流になれない。2017年に42試合、翌年64試合に登板した平井は蓄積疲労が「なくはない」と言い、今年はコンディショニング維持を目的とするトレーニングにメリハリをつけるようにした。昨年までは「ちょっとしんどいけど、やろうかな」と不安に突き動かされる部分もあったが、今年は「やめる勇気というか、休養をとるようにしている」。結果、昨季よりコンディションが「全然いい」と5月4日に話していた。
小野コーチの言い分は正論で、各投手に自己管理が求められるのは当然だ。ただし疑問に思うのは、西武の投手運用は昭和の頃から進歩しているのか、である。
ブルペンで肩を作る回数は各自に任せられ、平井は5月2日の日本ハム戦では4度作ったと話した。試合展開に応じて普段より多くなったようだが、首脳陣が平井の起用法を明確にしていなかったことも無関係ではない。さらに言えば、ブルペンでの球数管理も個人任せだという。
昭和のプロ野球なら、こうしたことが当たり前だったかもしれない。ただし現代はメジャーリーグの方法が伝わり、スポーツ科学やテクノロジーが進化している。“プロ”選手に自己管理は不可欠だが、“プロ”球団なら、貴重な資産である選手を適切に管理するという発想が求められるのではないか。
5、6点差の試合終盤で平井を投げさせるのは、不必要な負荷をかけるばかりでなく、他の投手の登板機会が失われることも意味する。昨年のCSではブルペンの層の薄さがソフトバンクに敗れた一因だったが、同じ轍を踏まないためには、ブルペンの駒を厚くするような起用をしていくべきだ。
ポストシーズンを勝ち抜くことを見据えると、平井レベルのセットアッパーがあと数枚必要になる。ヒースやマーティンの復調をただ待つのではなく、森脇亮介や佐野泰雄など他の投手の成長をもっと促すような起用はできないのか。球の質的には、相内誠も面白いだろう。
今回のコラムが掲載された5日後の7 月8日、新たに完成した室内練習場や選手寮などの内覧会が一部のファンとマスコミ向けに行われる。さらに、7月19日から始まる「ライオンズフェスティバルズ2019」では「新たな時代(令和)においても王者であり続けるよう願いを込めて令王《レオ》ユニフォーム」が制作された。西武球団は「昭和のノスタルジー」とも言われた旧・選手寮や室内練習場に別れを告げ、新時代に向かおうとしている。それならば、チームマネジメントもアップデートするべきではないだろうか。
昭和には、昭和の良さがある。しかし、新時代のやり方も生まれている。
王者であり続けようとする西武球団に求められるのは、選手とコーチが互いの能力を掛け合わせて最大化できるような、組織全体で取り組む令和式の投手マネジメントだ。
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