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居場所を失うかは自分次第……中日・吉見一起を支えるふたつの言葉

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/07/07
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居場所を失うかどうかは自分次第

 その夜、吉見と金子は焼き肉を食べに行っている。

「最初に言われたのが『お前のバント、三振やろ』でした。送りバントを決める前に空振りっぽい動きがあったんですが、審判がノースイングの判定で。まず、それをいじられました。あと、その打席でキュンと曲がる球があったので球種を聞くと、『練習中のスラッター』と言っていました。スライダーとカットボールの間みたいです。相変わらず、独特でした」と笑う。

 野球の話はわずかだった。

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「本当にケロッとしていました。やはり120勝もする人は切り替えが早いなと改めて思いました」

 今、中日は変革期である。吉見はかつてのエース。今、自分が投手陣の中心にいないことを本人も重々自覚している。

「山崎(武司)さんとロッカーが近くて、晩年に『まだ自分はやれると思うけど、居場所がなくなると、辞めなきゃいけない』と話されていたのを今でも覚えているんです」

 40歳まで現役。これが吉見の目標だった。

「変わりましたね。先は見ないです。1年1年、いや、1試合1試合を積み重ねることしか考えていません。居場所を失うかどうかはこれからの自分次第です」

 きっと今日も「未来の吉見」が周到な準備をするよう、「今の吉見」に指示している。戦いが始まれば、マウンドの後ろでコントローラーを握る「もう一人の吉見」が現れる。結果は全て受け入れて「ま、いっか」と前を向く。

 円熟味を増した右腕。私はまだ彼の投球に酔いしれたい。

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