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首位を追いかけるベイスターズを見て思い出す、1997年の“世界でいちばん熱い夏”

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/07/31
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異様な雰囲気だった首位ヤクルトとの「天王山」

 8月22日からの地元横浜での巨人戦もタフな戦いとなり、1勝1敗で迎えた3戦目も8回終了時で2-2。必勝を期すならここで佐々木登板だが、大矢監督は大魔神を休ませるべく西清孝をマウンドへ送る。ダイエーから広島を経て打撃投手兼任で入団し、この年13年目で初勝利を挙げた西は満塁のピンチを見事に切り抜ける。その裏駒田が満塁からサヨナラ犠飛。裏ではヤクルトが1勝2敗でついに2.5差。翌朝のニッカンには“大矢泣いた”の文字。僕らも気持ちは同じだった。

ついにヤクルトを射程圏内に捉えた8月下旬。毎日の必死の戦いに大矢監督は涙した。(左:サンケイスポーツ 右:日刊スポーツ)

 8月26日からの中日3連戦も3タテ。さすがに最後の阪神戦は息切れして負け越すも、8月は通算20勝6敗。同一カード3連勝5回。ここまで勝ち続けても追いつけないのが野村克也率いる常勝ヤクルトの恐ろしさだ。そして9月2日からの横浜での2連戦は正真正銘の「天王山」。ベイファンが多勢を占める超満員のスタンド。その片隅にいる僕らも、選手も明らかに異様な雰囲気を感じ、プレッシャーでガチガチになる中、石井一にまさかのノーヒットノーランを食らってしまう。翌日のニッカンにはその写真を手に微笑む神田うのの写真が載り、僕らの心は余計にかき乱された。ベイは翌3日も終盤に2点を勝ち越され、激しい雨で試合が中断した際にはそれに抗議するべくスタンドからメガホンやゴミが次々と投げ込まれた。さらに一塁側カメラマン席からは男がグラウンドになだれこみ、係員とケンカを始める始末だ。

 TVKの中継を観ているこっちにも球場のしらけムードが伝わって来る中、数人の選手がゴミ袋を手にベンチから飛び出してくる。まだ登板の可能性がある佐々木が、三浦が、波留が、駒田が黙々とゴミを拾う。「みんなの応援でここまで来られたと思っているよ」(佐々木)「オレたちがあきらめたら終わってしまうよ」(三浦)。7月頭の最大14ゲーム差から巻き返してきたナインの、それはまぎれもない本心だったのだろう。結局この試合にも負け、実質的にとどめを刺されたベイ。しかしこの97年8月の戦いは、初めて選手も、そして僕らファンも本気で「優勝したい」と思った濃厚な1か月だった。

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天王山のヤクルト戦で連敗。ナインによる雨中のゴミ拾いがファンの心を打った。(日刊スポーツ)

 1位にならなきゃ意味がないという極度の緊張を、こっちもスタンドで、テレビやラジオの前で毎日感じていたあの頃。現時点で巨人と4.5ゲーム差。CS制度はあれども、やっぱり文句なしのリーグ優勝で日本シリーズを観たい。あの“世界でいちばん熱い夏”を経験したファンのひとりとして、8月を迎えるにあたっての願いはそこにある。

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