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さも当たり前のように、仕事より観戦

 決勝当日、昼休みのチャイムでさも当たり前のように業務終了の雰囲気となり、全社員が休憩室や役員室(!)のテレビに集まるか、自分のデスクのPCで動画配信を見るかのどちらかに移行してしまった。

 3回戦の横浜高校戦あたりから、金農の試合が始まると仕事よりも観戦を優先していい雰囲気が徐々に出来上がっていた。取引先から電話がかかってきたり、来客があったりすればさすがにそちらを優先しないといけないが、この日はそれも皆無だった。県内の取引先はどこも同じような状況だと容易に想像できる。秋田出身の小倉智昭キャスターが「とくダネ!」で言っていたことは何の間違いもない。

 惜しむらくは、劇的なサヨナラ2ランスクイズで決着した準々決勝の近江高校戦が、土曜日で会社が休みだったことである。あれを職場で共有できたら楽しかっただろうな、と今でも少し心残りがある。

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2018年夏の甲子園閉会式 場内を一周する金足農ナイン ©AFLO

試合は終わった、でもまだ終わらない

 決勝が終わるとさすがに職場は少ししんみりとしたムードになり、僕らは金農ナインの健闘を称え、定時で職場を後にした。

 帰宅してテレビを付けると、ニュースでは全国版と秋田版の区別が付かないほど金農の話題で盛り上がり、普段は人もまばらな秋田駅近くの大広場で催されたパブリックビューイングに仙台かと思うほどの人数が詰めかけている映像が流れていた。

 我が社の垂れ幕は「優勝版と準優勝版の2案をこちらから提示し、決勝が終わったら結果に応じたほうを制作する」という内容で発注し、決勝翌日には無事に「秋田県立金足農業高等学校 全国高校野球選手権大会 準優勝おめでとう」の文字が社屋に掲げられた。なかなか無理な要望だと思うが、やはり秋田市内外から同様の要望が相次いだため、各種業者の方々は嬉しい悲鳴を上げつつ相当頑張って対応したとのことである。張り紙や看板、垂れ幕などの「おめでとう」「ありがとう」の紫色の文字は、肌寒い季節になるまで秋田市の至るところで目にすることができた。

 年も明け、雪も溶け、さすがに1年近く経てば秋田の人ももう忘れる頃だろう……と思っていたが、吉田輝星の1軍初登板の日、あの日と同じ大広場にパブリックビューイングが設けられ、多くの人が彼の熱投に歓喜していた。

 ひょっとしたら、秋田の僕らがあの熱狂を忘れるのには、もう103年くらいはかかるのかもしれない。

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