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常に心の奥底に潜む、「もしも……」の思い

 今年2月に行われた沖縄・浦添キャンプにも青年は駆けつけた。数カ月ぶりに目の当たりにするハフの雄姿。ハフもまた、青年のことを記憶していた。あのときの礼を言い、グラブにサインをもらった。青年が決意を新たにする。「今年も、ハフを応援しよう!」。彼の「ハフ愛」は、ますます燃え盛っていた。

 今シーズン、ヤクルトは波に乗り切れない試合が続いた。ハフはセットアッパーとして、獅子奮迅の活躍を見せている。好結果のときは「ナイス、ピッチング!」と声をかけ、結果が伴わなかったときには、「ハフ!」と力強い声援を送る。それは、試合後のクラブハウス前での恒例行事となった。青年の姿を見つけると、ハフは「クレイジーボーイ」と声をかけてくれるようになった。警護用のロープ間際までハフが近づいてきてくれるようにもなった。青年とハフ、ハフと青年。相思相愛の間柄となったのだ。

ハフを全力で応援する「クレイジーボーイ」 ©長谷川晶一

 しかし、青年には心の奥底に隠した不安が常につきまとっている。もちろん、ハフの今後だ。ハフはいつまでヤクルトにいてくれるのか? 本人の意思もあるだろう、球団の判断もあるだろう。考えたくないことだけれど、常に「もしも……」の思いが青年にはある。「もしも、ハフがNPBの他球団に移籍したならば、ヤクルトに加えてそのチームを応援しよう」。あるいは、「もしもアメリカ、韓国、台湾など異国のユニフォームを着ることになったら、有休を使って、絶対に応援に行こう」。それぞれのシミュレーションはできている。

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 しかし、何度考えても答えの出ない問いがある。「もしも、ハフが引退するときがきたならば……」、この問いに対する明確な答えは、まだ青年の中にはない。考えたくないことだけれど、いつか別れの日がくることは頭では理解している。しかし、今はまだそのことを考えたくない。今、目の前にいるハフを全力で応援することだけに邁進したい。

 ハフ自身もまた、異国の地でこんなに自分のことを熱狂的に応援してくれる「クレイジーボーイ」に出会うとは思わなかったことだろう。青年はハフを愛し、ハフもまた青年に親愛の情を抱いている。つぶやくように青年は言う。

「ハフ以上の人にはもう出会えないかもしれない……」

 ちなみに、青年に恋人はいない。そして、英語もしゃべれない。燃え盛る「ハフ愛」の行方は、今後どうなるのか? 青年には、どんな未来が待ち受けているのだろうか?

ハフに誕生日プレゼントを手渡す応燕ドルフ氏

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