9月11日、今季初めて首位に立ち、15日にはマジックが点灯、18日終了時点で『M6』と、いよいよカウントダウンに入った。一時は首位だったソフトバンクとのゲーム差が8.5まで開き、チーム防御率も4.5以上にのぼるなど、正直、『優勝』の二文字を遠く感じていた人は、筆者だけではないのではないだろうか。それが、あれよあれよという間に気がつけば首位。嬉しい気持ちと同時に、急に「優勝がいつ、どこで決まるか」のスケジュール問題で頭がパニック状態である。

野手からも信頼されている高卒2年目の19歳・平良海馬

 後半戦からのチーム好転は、この男なしでは語れない。男の名は平良海馬。沖縄・八重山商工高等学校出身の高卒2年目の投手で、デビュー戦となった7月19日オリックス戦、150km超の剛速球を連続してみせるなど、一軍初マウンドとはまったく思えぬ堂々たるピッチングで、観る者にいきなり強烈なインパクトを残した。その投げっぷりの良さに首脳陣の評価はグングン上昇し、ヒース投手、マーティン投手と助っ人投手が相次いで戦線離脱した中、瞬く間に勝利パターンの一角に加わった。

 昨年、イースタン・リーグでも10試合登板、防御率5.40の成績だった投手。大躍進ぶりは、一見、シンデレラストーリーに映るかもしれない。だが、ファームでは早くから「想像以上の“掘り出しもの”」として期待は高く、特に今シーズンは「一軍で、どのポジションでも対応できるように」と、少しでも一軍昇格への可能性を広げるために本格的に先発ローテーションに加えようとの方針が固まっていた(結果として、そのタイミングで一軍昇格となったが)ほどだ。「遅かれ早かれ、これぐらいの活躍は当然だと思っていた」と、二軍投手コーチ陣ら、彼を知る人にとっては何の驚きもない。

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 ポテンシャルは、投球を見れば一目瞭然だ。身長173センチ、体重95キロという、まるでブルドーザーのような巨体から投げ込まれる馬力ある直球は、平均でも150キロを超える。よく、指導者などが投手を褒める際、「投げっぷりがいい」「腕が振れている」との表現を使うが、平良投手こそ、まさにその言葉を体現していると言ってもいいだろう。「19歳であれだけ腕が振れる投手はあまりいない」と、正捕手・森友哉選手も大絶賛する。「若いので、思い切りがいいですし、器用に抑えようと思えばできるんでしょうけど、そうではなくて、良い意味で、荒々しく投げてきてくれる。気持ちの入ったボールが来るので、こちら側も『抑えたい』という気持ちがより強くなります。それに今、野手の人もみんな『平良が出てきたら抑えてくれる』と言っています。その意味でも、チームにとってすごく良い刺激にはなっていると思います(森選手)」。

身長173センチ、体重95キロの19歳・平良海馬 ©上岡真里江

 ファームでは制球力が課題とされてきたが、「こっち(一軍)では、そんなにコントロールが悪い印象はない」と、森選手が話す通り、改善が見られる。本人はその要因について「小野(和義)コーチから、練習の最後にショートスロー(短い距離でのキャッチボール)を毎日続けるように言われて、やるようになったこと」を挙げる。他の投手に聞いても、決して特別な練習方法ではなく、むしろ通常でも頻繁に行われるメニューだというが、19歳剛腕にはマッチした。「毎日感覚が違うので、最後、ショートスローで感覚を合わせてからロッカーに上がるようにしています。それをやっておくことで、試合中のブルペンでも、感覚良く投げられるようになりました」。何をすれば良くなるのか。向上するために自ら模索し、実際に試し、実力に変えている姿こそが、平良投手の最大の才能と言えよう。