生きていると不思議な縁を感じることがある。プロ野球の世界においても同じだ。今季限りで9年に及んだ千葉ロッテマリーンズでの現役生活にピリオドを打ち、コーチに就任した伊志嶺翔大も不思議な縁に導かれプロの門をたたき、そして今度は指導者となる。

中学時代にプロの投手に掛けられた言葉

 あれは03年2月。伊志嶺、中学校2年生の時だった。地元宮古島ではオリックスが春季キャンプを張っており、毎年、小中学生を対象に野球教室を行っていた。伊志嶺は投手としてイベントに参加をした。指導役に数人の一軍投手たちがおり、そのうちの一人が川越英隆だった。現千葉ロッテマリーンズ一軍投手コーチだ。一目見るなり、その才能に気が付き、声をかけた。

「キミ、絶対にプロになれるよ。だから、頑張れよ」

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 その時にプロの投手から掛けられた言葉が伊志嶺にとっては心の支えとなった。宮古島から沖縄本島にある沖縄尚学に進学。甲子園にも出場した。東海大に進学し主将を務めると10年ドラフト1位で千葉ロッテマリーンズに入団をした。順風満帆に見える野球人生だが肩の怪我もあり投手から野手に転向。挫折を味わいながらも、苦しい時にいつも心の底から浮かび上がってきたのはあの日、野球教室でプロの投手から掛けられた言葉だった。

 偶然にも入団をした千葉ロッテマリーンズにはオリックスから移籍をした川越が現役投手として在籍していた。あの時の中学生とプロ野球選手はチームメートとなったのだ。だから入団をすると真っ先に挨拶に向かった。「絶対にプロに行ける。頑張れよ」と優しく声をかけてくれた川越は驚きながらも覚えていてくれた。

川越コーチと伊志嶺 ©梶原紀章

「投手じゃなくて野手でプロ入りしたのかと笑ったけどね。本当に当時、身長も高くて体もしっかりしていて角度のあるキレのあるボールを投げ込んでいた。身体のバネも感じた。凄い素質を持った子。その時にこの子は絶対にプロに行く素材だと思っていた。ずっと、あの子はどうなったかなあと気になっていた。だから、あれから月日が経って、しっかりと努力を積み重ねて同じ舞台にたどり着いたと分かった時は本当に嬉しかった」と川越投手コーチは懐かしそうに振り返る。

 伊志嶺も「本当に嬉しかった。ずっとその事を覚えていたし苦しい時の自分のモチベーションだった。でもまさか同じチームでプレーすることになるなんて夢にも思わなかった。不思議な縁です」とシミジミと語る。