なぜ練馬区では若者が次々と就農しているのか?
自身は水耕栽培にこだわらず、土での栽培も始める。
「土の方が味に深みが出ます。常に美味しさを追求していかなければ、消費者に飽きられてしまう」という考えからだ。
白石さんは「とにかく農業のことを理解してほしいという一心で様々な取り組みをしてきたのが我々の世代です。これに一定の成果が出た近年、次の世代が台頭を始めました。山口さんら『もうかる農業』を目指す若者です」と話す。
実は白石さんの息子秀徳さん(30)も2年前に就農し、アスパラガスのハウスを5棟建てた。大学の農学部を出た後、市場で競り人をしていたので、野菜の目利きは一流だ。「東京で本格的に勝負できる野菜」としてアスパラガスを選んだ。
こうした若手が練馬区では次々と就農しているのである。
「農業にもビジネスチャンスはたくさんある」
山口さんは「農業はもうからないと信じ込まれています。でも、工夫次第でもうかります。そのことを若手の農業後継者や、他の仕事に就いている農家の跡取りに声を大にして伝えたい。就職した会社で特殊な才能でも発揮できれば別ですが、会社員としてストレスいっぱいの毎日を送るより、農業で稼ぐ方がどれだけ格好いいか。特に東京には1400万人近くが集まっています。農業にもビジネスチャンスはたくさんあるんです」と話す。
白石さんは、目を細めて見守っている。
「私達の世代は二つに分かれました。地べたにはいつくばって栽培することにこだわった農家。不動産業に転身していった農家。結局、生き残ったのは農業を続けた側でした。生き馬の目を抜くような不動産業界で、人のいい農家はやっていけなかったのです。そして今、ビジネスの感覚を持った世代が、都市ならではの農業で本格的にもうけようと躍動しています。練馬の農業はこれから面白くなりますよ」
白石さんも山口さんも、きらきらと輝く目が印象的だった。
写真=葉上太郎