ゲームも漫画も禁止の“厳格な家庭”
神奈川県横浜市出身の森林は、自身が生まれ育った土地を「ちょっと沈んだ町だったかな」と振り返る。「横浜といっても田舎の方で。駅を境に山側と山じゃない側に分かれていて、僕の家は山じゃない側だったんですけど、そこには火葬場があったりして」
そんな町の中、森林は厳格な家庭で育ったという。「ファミコンは買ってもらえなかったですね。ゲームをすると馬鹿になる、漫画を読むと馬鹿になる。あと、テレビは1日2時間まで、っていう決まりがあって。父の考えです」
誰もが知る一流企業に勤める厳しい父。県内の名門私立男子校に進学した優秀な兄。まだ小学生、何者でもなかった森林少年にとって、一番安心できる時間は母と一緒に過ごすときだった。「お母さんといるときなら、どれだけテレビを見ても良かったんです。当時はおばあちゃんも一緒に住んでいたんですけど、お母さんにとっては嫁姑の仲ですよね。結構厳しくされてるところも見ていて、だから僕たち男兄弟がお母さんを守らなきゃ、っていう意識があったかな。お母さん大好き……というか、マザコンですね(笑)。今も、僕の仕事に対する理解が高いのはお母さんです」
どこにでもいるような、典型的な“お母さん子”。だが、話題が中学受験前に及ぶと、森林は何度も「全能感」という言葉を口にした。小学生だった森林少年は、兄が通っていたこともあり、駅前の中学受験専門塾へと入塾する。毎週のようにテストの結果が並べられ、比較され、順位が出る。すると、彼の中に変化が生まれ始めた。
「自分は特別な頭脳を持っているんだ」
「近所に頭が良いと言われていた、4つ上くらいのお兄さんがいたんですよ。『本を斜め読みできる』って評判で。その人は結局、浅野中学に行ったんです。それでやっぱり凄いねー、って。でも受験の準備が進むにつれて、僕にとって浅野はすべり止めのレベルだとわかってくる。そうなると、あれっ、僕はあの人を超えてるんだ、なんて思い始めて。自分は特別な頭脳を持っているんだ、って意識が高まっていきましたね」。当時の自分を分析するように、森林は淡々と語る。
もともと、小学校での成績もオールAだった。だが、卒業生の9割以上が地元の公立中学に進むような学校で、母から「あなたは頭がいいね」と言われても、そんなのは「どの親も自分の子がかわいいから言うんだろう」と、少し冷めた気持ちで受け止めていた。小学校では4年生までリレーの選手。走るのが速く、明るくて、リーダーシップもあった。しかし、塾に通い始め、数値という形で可視化されることで、自分の頭の良さは世間一般から見てもトップレベルなのだと気付かされたという。
塾では、成績で席順が決まる。教室ではいつも、自分よりも前の席に常連の成績優秀者が6人いた。しかし、森林少年はとにかく本番に強かった。緊張というものをしないのだ。