3月11日、心に衝撃が走りました。新型コロナウイルス感染拡大を受け、日本高校野球連盟は第92回選抜高校野球大会を史上初めて中止とすることを決定しました。一度は無観客での開催を目指すとの発表がありましたが、叶いませんでした。

「甲子園、心配ですね」

 その決定を前に複雑な心境を語ってくれていたのは、プロ5年目の川瀬晃内野手でした。

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エースでキャプテン センバツ出場を決めていた弟の存在

 自身の母校である大分商が23年ぶり6度目のセンバツ甲子園出場を決めていました。そんな母校のエースでキャプテンを務めるのは5つ年下の弟・堅斗くん。仲良しの弟のことを心底応援している優しい兄は、センバツの動向が気になって仕方ありませんでした。

 川瀬選手の弟は、プロ注目の最速147キロ本格派右腕。昨夏の大分大会決勝という大事な一戦では、2年生ながら救援マウンドを託されました。あと一歩で甲子園というところで悔しい思いをした夏を経て、昨秋の高校野球秋季九州大会ではチームを準優勝に導く好投を見せました。そして、春の甲子園出場を掴み取ったのです。私が九州大会を見に行っていたことを知ると、川瀬選手は「弟、どうでした? 甲子園のマウンドに立ってほしいですね」と目を輝かせていました。本当に仲良し兄弟だなと微笑ましい気持ちになりました。

 川瀬選手自身は、大分商が甲子園に出場した2013年、1年生ながら甲子園ベンチ入り。しかし、出場機会はなく憧れの聖地でプレーすることはできませんでした。その時の記憶として今も鮮明に残っているのは、聖地に響く大歓声でした。弟にはその中でプレーして欲しいという気持ちはあったものの、「無観客試合でも甲子園でプレーできるんだから。見てくれている人はいるから頑張ってこい」とエールを送っていたそうです。

野球談義に花を咲かせる川瀬兄弟 ©本人提供

 ところが一転、センバツ中止という事態になってしまいました。

「仕方のないことだけど、可哀想ですね……。夏、頑張れって言いました」

 見えない敵に阻まれた甲子園。悔しい気持ちでいっぱいなはずですが、堅斗くんは受け止めて前を向いていたそうです。

 川瀬選手は、以前から弟のピッチングについて「球自体はスゴイ」と話していたのですが、「今年は球が重たいしキレがある。今まで以上のものを感じる」と更なる成長を感じていました。

「弟は『プロになりたい。兄ちゃんみたいになりたい』って言ってくれます。だから自分も誇れる兄になりたいですね。もっとやらなきゃですね」

 背中を追いかけてくる弟に大きな背中を見せなければと自分自身の身も引き締まります。弟の頑張りは常に兄への刺激にもなっていたのです。弟が試合で好投して記事になると、必ず「兄はソフトバンク川瀬晃」と自身の名前が挙げられます。だからこそ、胸を張れる兄でいたいのだと言います。