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2020/04/10

厚労省とLINEの調査でわかったことは?

徳田 もちろん、検査前確率が低い集団にスクリーニング的に行っても意味がありません。スクリーニングとは無症状者対象の検査を意味しますが、それをしてしまうと偽陽性と偽陰性が増えます。例えば、東京の人口1200万人中に1万2000人感染者がいるという中で、ランダムサンプリング(無作為抽出)的に検査するとそうなります。それは鳥集さんのこれまでの解説に示されています。

 しかし今回の新たな感染局面での検査はスクリーニング検査ではありません。診断検査とスクリーニング検査は異なります。症状がある人が対象であり、医師が問診などの診察をするからです。

人の気配が消えた羽田空港 ©AFLO

 最近、厚労省とLINEが行ったオンライン調査では、軽症を中心に新型コロナウイルスを疑いうる症状を持つ人は約7%いることがわかりました。東京の人口の1200万人中では約80万人いることになります。この症状がある80万人を対象に、医師による問診や検査を行うのです。日本の場合、感染者は社会から悪者扱いされるような文化があると指摘されています。よほど思い当たることがないと自ら検査を希望することは無いと思います。患者の軽微な自覚症状を過小評価してはいけません。

 80万人のなかに感染者が1万人いるとすると、検査前確率は1.25%となります。これでも確率としてはまだ低いですが、医師が問診をして感染の疑いが強いと診断した人を対象に検査をすれば、検査前確率が上がり、診断確率が上がることが知られています。

“オンライン診療”でも感染者を絞り込める

徳田 ちょっと難しいですが、検査を行った場合に、感染者が非感染者より何倍陽性と出やすいかを示した数値に「陽性尤度比(ようせいゆうどひ)」があります〈陽性尤度比=感度/(1−特異度)〉。たとえば、インフルエンザの迅速検査も感度が約60%と低く、偽陰性が出やすいことが知られています。ですが、下の表1のように「発熱と咳がある」人に絞って検査を行えば、感染者は非感染者より5倍以上も検査前確率を上げることができるので、検査で陽性のときに真の陽性者として解釈できます。逆に、検査前確率を問診によって低下させることができれば、検査そのものが不要になります。このプロセスが診断検査とスクリーニング検査との違いです。

表1. インフルエンザ診断における各種症状・所見の尤度比(出典:徳田安春「病歴と身体所見の診断学」医学書院)

 私たち医師は、このような臨床推論で条件付き確率を変化させ、診断確率を調整しているのです。複数の症状があれば、それぞれの尤度比を掛け合わせて適用できますので、診断パワーがアップします。発熱および咳の尤度比に悪寒の尤度比を掛け合わせると、14になります。これだけでも検査前確率は1%から14%にアップします。このように、オンライン診療で可能な問診だけでも、検査前確率を10%上げることができます。下記に新型コロナウイルス感染症の診断確率を大きく変化させる症状と所見を示します。

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新型コロナウイルス感染症の診断確率を大きく変化させる症状と所見

 

【検査前確率を上げるもの】

曝露歴、呼吸困難、空咳、発熱、悪寒、倦怠感、筋肉痛、下痢、嗅覚および味覚異常、頻呼吸

※検査が可能な場合……画像検査:両側肺炎の所見、特にスリガラス状陰影/血液検査:リンパ球減少、LDH上昇、Dダイマー上昇、肝機能障害

 

【検査前確率を下げるもの】

地域での流行無し、他の原因が明らかな疾患、慢性咳、血便や粘液便

 

【検査前確率を変えないもの】

咽頭痛、痰、頻脈、リンパ節腫脹

 

【新型コロナウイルス感染症が関与している可能性があるピットフォール(落とし穴)疾患】

心筋梗塞、脳血管障害、心不全、喘息発作、COPD増悪、交通外傷

 

※これまで発表された論文データより作成。尤度比データはまだ明らかではない。医師はこれらを総合的に評価して診断確率を個々に判断している。