この連載でも何度か触れている「告知義務」とは、簡単に説明しますと、事故物件を借りようとしている人に対して、不動産業者は事前に「ここは事故物件です」と伝えなくてはいけない、という宅建業法上の義務のことです(物件の売買時も同様です)。
帰国後に「女性を殺した」と供述した中国人
ただ、ときにはこの告知義務が果たされない場合があります。一つは、貸主もそこが事故物件だと気付いていなかった場合。以前の連載(「集団自殺が起きた一軒家を購入したら……」大島てるが語る“関西最恐の事故物件”とは?)で紹介した“中国人の男が日本人女性を殺した部屋”が、まさにそれに当たります。
このケースでは、男が団地の部屋を引き払い、中国に帰国した後に、「日本滞在時、自宅で女性の首を絞めて殺した」と供述しました。しかし、そのときにはもう、次の入居者が殺人現場となっていた部屋に引っ越し、新たな生活を始めていました。つまり、貸主も気付かない間に、事故物件の賃貸契約が結ばれていたのです。
他方で、「分かっていて、あえてルールを破る」というケースもあります。「家賃を下げたくないから、事故物件であることを隠して貸し出す」という、悪徳業者の例がそれに当たります。
“国籍狙い”で乗り込むケースも
クルーズ船に妊婦が乗り込んでしまう、という話も、この2つのパターンで説明できます。前者で言えば、これは「本人も妊娠に気付いていなかった場合」となるでしょう。長いときには3カ月以上にも及ぶクルーズ船の旅では、稀ではありますが、そうしたことも起きうるようです。
一方、後者のパターンには、妊娠していることを自覚していながら、スタッフを騙して乗り込む、というケースが相当します。その目的の一つが国籍です。前述の通り、たとえばアメリカに船籍を置くクルーズ船に乗り、公海上で出産すれば、その子供にはアメリカ国籍が与えられます。
こうした“国籍狙い”の場合、飛行機でその国に行き、現地で出産するという方法が王道ですが、政治的に不安定な国の富裕層の間では、クルーズ船を使う手法もあるそうです。
この話に関連して、私が思い出す事故物件があります。