コロナ禍の中、スタートした2020年の無観客ペナントレース。我らが中日ドラゴンズは7年連続Bクラスの泥沼から脱しようと序盤から必死に戦いを続けている真っ最中。燃える男・梅津晃大の奮投、新星アリエル・マルティネスの登場など、明るい話題も少なくない。
ドラゴンズにはもう一つ、明るい話題がある。今年の春、名古屋の市立小学校と特別支援学校、合計266校に入学した約2万1000人の新1年生に「CD」マークの刺繍が入ったドラゴンズのオジリナルキャップが無料で配布される「みんなにドラCAPプロジェクト」が行われたのだ。コロナ禍によって多少スケジュールが前後したものの、小学校が再開したGW明けから順次学校を通じて子どもたちの手に渡っている。
ドラゴンズのキャップを被った子どもたちを名古屋の街で見かけなくなって久しい。これは単にドラゴンズの成績が低迷しているからではなく、子どもたちの野球離れや子どもが帽子そのものを被らなくなったことなど原因はいくつも考えられる(昭和の子どもたちはとにかく野球帽を被っていた)。ドラゴンズのキャップを被った子どもがすぐにドラゴンズのファンになるわけではないだろうが、少なくともきっかけの一つになる。子どもたちにドラゴンズキャップを――多くの人の悲願がこの春、ついに実現したというわけだ。これが明るい話題じゃなくて何だろうか。
ドラゴンズのキャップで地元愛を高めたい
ところで、このドラゴンズキャップ企画。実はとある一企業がプロジェクトを担い、予算をまかなって、実現にこぎつけたことを知っている人は意外と知られていない。
それがポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社。あのポッカコーヒーの会社である。筆者の世代なら、柴田恭兵のCMが印象深い。社名に「サッポロ」と入っているが、名古屋市中区栄に本社を置く、れっきとした名古屋の会社である。
企画を立ち上げたのは、ポッカサッポロの名古屋戦略部に所属する平岡隆志さん。名古屋育ちで現在52歳の平岡さんも、小学生の頃は子ども向けファンクラブ「少年ドラゴンズ」に入り、つばの裏に「少年ドラゴンズ会員」と書かれたCDマークの野球帽を被ってナゴヤ球場の外野席に通っていたという筋金入りのドラゴンズファン。実は、ポッカサッポロの社内でも「最近、ドラゴンズの帽子を被っている子どもを見ない」という話題が上っていたという。
「僕らが小学生の頃は、当たり前のようにドラゴンズの帽子を被って学校に通っていました。もちろん、みんなドラゴンズファンです。よくよく考えてみると、それがドラゴンズ愛から地元愛につながっていたんじゃないかと思います」
もともとポッカサッポロは「でらスポ名古屋」という名古屋市の施策に協賛してきた。これは名古屋市と名古屋を拠点に活動している13のトップスポーツチームの連携によって、市民のスポーツ振興や健全な青少年の育成、地元愛の醸成を図るための活動を行うというもの。もちろん、ドラゴンズも参加している。ポッカサッポロはスポーツイベントにドリンクなどを提供する形で協力を続けていた。
「スポーツイベントに協賛などを重ねていく中で、名古屋市の方と『名古屋をもっと盛り上げていくことはできないか』という話を交わしていました。それなら、『でらスポ名古屋』の事業でドラゴンズのキャップを作って子どもたちに配れないだろうか。それがドラゴンズの盛り上がりになり、名古屋全体の盛り上がりにつながって、『でらスポ名古屋』の理念が実現できないかと考えました」
ポッカサッポロが具体的に動き始めたのが2019年の春のこと。さっそく中日球団に話をもちかけるのともに、これを「名古屋市の事業」にするべくアプローチを始めた。もちろん、中日球団に異存のあるはずがない。名古屋市の担当部署とも一丸となってプロジェクトは具体的に動きはじめた。学校を通じて配るため、小学校側の同意も得なければいけなかったが、プレゼンなどを通じて理解を得ることができた。一つ一つの地道な積み重ねが、大きなプロジェクトになっていく。
「地元の自治体である名古屋市と、地元のトップスポーツチームである中日ドラゴンズ、地元のメーカーである我々とが一緒になって事業を行うことができたのが、とても良かったですね。我々としても充実したプロジェクトでした」