7月22日から開始される「Go To トラベルキャンペーン」では、16日に“東京除外”が突如発表されるなど、政府の観光支援策は迷走している。一方、緊急事態宣言の解除以降、順次営業を再開した全国の宿泊施設は、3密回避のため“新しい旅館スタイル”への転換を余儀なくされている。

 温泉エッセイストとして、全国の旅館を泊まり歩いてきた山崎まゆみさんは、6月下旬、実に3ヵ月ぶりの旅行として箱根を訪れた。フェイスシールドを装着したスタッフや、館内中に設置された消毒液に囲まれながら、旅館で心からリラックスすることはできたのだろうか――。(全2回の1回目/後編に続く

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 箱根湯本駅のホームはがらんとしていて、気をつけなくても自然にソーシャルディスタンスが保てる。駅構内の売店に立ち寄ると、ビニールカーテンが吊り下げられていて、その奥にフェイスシールドとマスクをした店員が2人いた。消毒液も見える。

 仰々しい――。そんな言葉が浮かんできた。同じ光景を都内のスーパーで目にした時よりも、なぜか大袈裟に感じるのだ。

閑散とした箱根湯本駅のホーム(6月下旬)
ビニールカーテンが吊り下げられた駅構内の売店

 少し寂しさも込み上げた。人好きな私にとって、旅先で「暑いですね」「混んでますね」といった、見知らぬ人とのちょっとした立ち話も、旅の醍醐味だ。それが難しい。人と距離があるな、当たり前だけれど。

駅周辺にも人がいない

 6月19日に県をまたいでの移動ができるようになり、東京在住の私はすぐに(6月下旬の平日)神奈川県箱根にやってきた。

 緊急事態宣言が発令されてからは、ほぼ家の近所しか出歩いていない。買い物でも、意識的に人と距離を取り、取材や打ち合わせもオンラインという生活を続けてきた。今回の箱根行きは、いつもは年がら年中、旅がらすの私にとって異例の、ほぼ3カ月ぶりの旅となる。旅を渇望していたから、晴ればれとした気持ちで家を出たのだが、箱根湯本駅の風景はコロナ禍という現実を改めて突きつけてきた。

駅前も人は少ない

 箱根湯本駅周辺を散策すると、平日といえど、こんなにも人がいないなんて、と驚かされた。ただ紫陽花だけが小雨に濡れて、無邪気に咲き誇っていた。

バスで30分、旅館に到着

 箱根湯本駅からこの日の宿泊先「ススキの原一の湯」に向かうため、バスに乗車。車内はガランとしていて、窓も開いていて風通しがいい。風もそよいでいる。乗車時間は30分ほど。下車したバス停から、「ススキの原一の湯」と書かれた落ち着いた雰囲気の茶色い建物が見えた。2017年に本館が、19年の夏に別館が完成した施設で、まだ新しい。

今回泊まった「ススキの原一の湯」(旅館提供)

 しかし、ビニールカーテンが設置されたチェックインカウンターで、フェイスシールドとマスクをしたスタッフから、滞在中の説明が書かれた紙を出された瞬間、宿に到着した時の高揚感は打ち消された。