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 本来ならにっこりと「いらっしゃいませ」と笑顔で迎えてくれるのに、幾重ものガード越しでは人の表情が見えない。旅館で見るフェイスシールドやビニールカーテンには、箱根湯本駅で見た光景以上に違和感を覚えた。

 そもそも、数多の旅館がコロナ禍における「新しい旅館のスタイル」を模索している中で、ここを選んだ理由は2つある。

ビニールカーテンとフェイスシールド越しにチェックイン

「コロナウイルス勘弁して下さいプラン」で話題に

 ひとつは強烈な話題性だ。箱根一の湯グループは、江戸時代から続く創業390年の老舗で、現在、箱根に宿泊施設を10箇所有する。それでいて宿泊料金は安い。1泊2食1万円以内で泊まれるなど、基本的に高価格帯の旅館が目立つ箱根において、価格破壊を起こしている。

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 コロナウイルスが猛威を振るい始めた3月上旬に一の湯が出した「まじでコロナウイルス勘弁して下さいプラン 3900円」が話題沸騰したのも記憶に新しい。この時、まさに私も「もう全く、コロナ、勘弁だわー」とイライラしていたから、「よくぞ言ってくれた!」「いいぞ!」と胸がすく思いだった。その後も一の湯は実にアグレッシブに発信し続けている。

 もうひとつ、決め手になったのは「一の湯クリンリネスポリシー」だ。その言葉の意味がわからぬまま見た、たまたまTwitterで流れてきた1分強の動画には、同館の徹底した衛生管理対策がよくまとめられてあった。ここまでやってくれるのなら、安心して泊まれる。率直にそう思った。

【動画】箱根一の湯クリンリネスポリシーの説明動画
 

 さらには、そうした情報発信を積極的に行おうとする姿勢にも、好感を持った。他の旅館も、もちろんそれぞれコロナ対策をしているだろう。だが、情報発信に関しては、せいぜいHPに対策内容をテキストで掲載しているくらいで、一の湯のように動画まで制作し、きちんと伝えようとしているところはほとんどなかった。

「ここに泊まってみたい」。今回、一の湯を選んだ理由は、その一言に尽きるのかもしれない。しかし、同館のクリンリネスポリシーをわかった上で予約したはずなのに、私はチェックインの段階で、早くも目の前の光景に戸惑っていた。その理由は、一体何だろうか?

館内のいたるところに消毒液を設置

 チェックインを終え、客室に向かう途中、スタッフがドアノブや廊下の手すりを一生懸命に消毒していた。館内には、そこかしこに消毒液の入ったボトルや霧吹きが置かれてある。玄関先、ロビー、客室にも。一の湯がいくら徹底した掃除をしているといえど、自分が触る場所は自分で消毒して納得したい時もあるから、この心遣いは嬉しかった。

館内のそこかしこに消毒液が設置されている

 予約時に「この日の宿泊客は4割程です」と聞いていた通り、館内は空いている。今では、都内の方がずっと人と触れる場面が多いかもしれない。そう考えると、これくらいの人出であれば、温泉旅館そのものは、それなりに安心して滞在できる場所ではないだろうか。