コロナ禍でアマチュア野球の大会が数多く中止に追いやられるなか、西武が少年野球の発展のため、興味深い取り組みをスタートさせることを発表した。
埼玉西武ライオンズジュニアユース――。
埼玉県の中学生野球連盟(中学校の野球部を束ねる組織)と提携を結び、その選抜チームである「埼玉スーパースターズ」がライオンズの名を冠して活動していくことになったのだ。
仕掛け人の一人、埼玉県川口市立東中学の野球部顧問を務める武田尚大監督は、ライオンズと手を組んだ目的について説明する。
「ただの『埼玉県選抜』と『埼玉西武ライオンズジュニアユース』では、名前だけでも子どもたちに与える夢の大きさとしてかなりの違いがあります。これまで県選抜は全国制覇を目標としてきましたが、時代がいろいろ変わってきたなか、新たな野球のあり方にチャレンジしていきたいと思っています」
子どもの野球離れに歯止めを!
令和の時代の新たな野球のあり方について、もう一人の仕掛け人である立教新座中学の野球部顧問、蛭田量監督はこう語る。
「野球以外のいろんな知識や考え方を身につけてもらい、子どもたちに次の段階に進んでもらう。いい意味で、エリート教育をしたいと考えています。ボトムアップも大切な一方、トップを伸ばすのも重要なことだと思います」
埼玉県の中学野球部とプロ球団が組むという画期的な取り組みは、両者が数年かけてともに歩みながら、実現されるに至った。
日本の野球界はプロとアマの間に壁があり、一枚岩になれないことはよく知られているだろう(詳しく知りたい人は、拙著『野球消滅』を参照)。
一方、10年ほど前から子どもの野球離れが深刻になっている。とりわけ中学の軟式野球は顕著で、2010年に29万1015人だった全国の男子部員数が2019年には16万4173人に減少。実際、川口市内の野球部は部員不足に陥り、川口市中体連野球専門部は「坊主強制の禁止」を決め普及活動を始めた。
子どもの野球離れについて、ライオンズは「将来、プロ野球の危機につながりかねない」と捉え、埼玉県内で野球振興イベントを積極的に実施してきた。そうして両者はともに活動するようになり、昨年には「埼玉baseballフェスタ」というイベントが開催されている。こうした活動の効果は着実に表れており、川口市内の中学校全体では毎年、40~50人の初心者が野球部に入っているという。
今年、東中学野球部に11人の新入部員を迎えた武田監督は、普及活動の効果を口にする。
「さまざまな取り組みにより、野球の敷居の高さを下げることができました。今まで中学の野球部は『覚悟があるヤツが入ってこい』という雰囲気だったのが、温かい雰囲気で部員を集めて、人数を増やしているところが増えています。川口市内の学童野球では、人数が増えているチームも出てきています」