時を超えて、今まさに受け止めてあげるべき相内の言葉
僕はまだ相内誠を諦められません。
例年、2軍では無双とも言える投球を見せつつ、1軍ではダメというのが相内さんの一年ですが、ひとつキッカケさえあれば掲げる目標や意欲にも変化が生まれるはずだという伸び代を感じてしまうのです。そうしたキッカケをつかみ、周囲から称賛とさらなる期待を受けたあとの姿を見るまで納得しかねるのです。この選手を預かったのがどの球団であっても、結局はこんな感じだったろうという納得が。
2019年4月25日の千葉ロッテ戦、相内さんプロ7度目の先発登板。相内さんは3本塁打を浴びながらも6回まで4失点の粘投で勝利投手の権利を一瞬つかみました。けれど、救援陣が打ち込まれて同点となり、延長戦の末に西武は勝利したものの相内さんの初勝利は消えました。試合後、相内さんは「自分が先発してチームが勝ったのが初めてだったので、それがうれしかった」というコメントを残しています。それは勝負師のコメントではなかったかもしれませんが、愛すべき人柄が滲むコメントだったと思うのです。今度は別の展開で「勝利」を握らせてやりたい。もっと野球への欲が出るキッカケとなるような「勝利」を。
先に紹介した番組で、相内さんはお世話になった職員さんと先輩にこんな手紙を読み上げています。
「ふたりがいなければ、
自分はどうなっていたかわかりません。
考えると怖くなります。
本当にありがとうございました。
でも、お礼を言うのはこれまでです。
これからも心配を掛けます、迷惑も掛けます。
どうか見捨てないでください。
たくさん叱ってください。
たくさん教えてください。
10年後にもう一度お礼を言います。
それまでどうかよろしくお願いします」
時を超えて、今まさに球団やファンが受け止めてあげるべき本人の言葉がそこには刻まれています。いつまで甘えたことを言っているんだと思われるかもしれませんが、こういう青年を選んで獲得したのは西武球団なのです。「我々には高校生を大人に成長させるチカラはないのでは?」などとは自覚せず、黙って完成品の社会人だけ獲得していればいいものを青田買いにのり出し、こういう青年を選んで獲得したのは西武球団なのです。
約束の10年まであと2年。
成績はともかく、プロで限界までやりましたと胸を張ってお礼を言えるようにしてやること。それがひとりの青年の運命に関与した大人としての責任ではないでしょうか。そんな納得があれば、11年目以降の相内さんが「どう考えても届くのが早すぎると一部で有名なウーバーイーツの配達員」などに転身していたとしても、清々しく前向きな気持ちで注文することができると思うのです。
さて、今夜、私が頂くのは、まだギリ食べられそうな気がする千葉県房総産「腐っても鯛」です。
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