やはり選手を代えるには若手起用が必須である。さらに監督経験者の牛島和彦氏はチームとしてオフに解消すべき問題を指摘する。
「ポジション被りです。有望な若手とレギュラーの守る場所が重なっていてはもったいない。当時は村田(修一)と吉村(裕基)が同じサードでした」
監督就任1年目の2005年、横浜は3位と躍進。3年目の村田は24本塁打、82打点。同じく3年目の吉村は一軍出場なし。過去2年も16試合。時間のかかる選手と見られていたが、牛島氏は才能を買っていた。
「宜野湾キャンプで驚きました。フリーなら分かりますが、ティーバッティングでレフトスタンドの防球ネットを軽々と越える打球を打つんです。あんな選手はいませんでした」
半年後の秋季キャンプ前、牛島氏は吉村と対話した。
「頑張って村田を抜くか、試合に出たいか。3日やるから答えを聞かせてくれってね」
くすぶる若者の答えは後者だった。吉村は貪欲に外野の守備練習に取り組んだ。
「監督がやれって言っても、本人がその気にならないとダメなんです」
翌年、吉村は外野の3ポジションを全て守り、111試合に出場。26本塁打とブレイクした。
「最後に良い数字を残すことが僕の責任」
今の中日に若手の積極起用は見られるか。答えはノーだ。私は10月14日の中日・阪神戦後の囲み会見で与田監督の心中に迫った。残りシーズンをどう戦うのか。
「一番は勝つため。それしかない。今のチーム状況、順位を考えれば。我々には責任がある。色んな声が上がるのは分かるが、それとこれとは……楽しみとは違う」
鋭い眼光からは勝利優先の決意を感じた。
「最後に良い数字を残すことが僕の責任を果たすことになる。選手たちもこれまでとは違うものを作ることで、心が変わってくると思う。選手に自信を持たせたいし、選手もそのために頑張ってくれている。より一丸とならなければいけない」
与田監督の期待は「選手が変わること」だった。今年の結果が心を変え、心が練習を変え、練習が来季のチーム力を変える。では、若手はノーチャンスなのか。
「もちろん、ファームで頑張っている選手をチャンスがあれば、最後の試合までに使いたい思いもある」
頭の隅に「選手を代えること」も入っていた。指揮官が参加したスカウト会議では石川昂弥のショート起用が議題に上った。編成側が「唯一、当分のレギュラー」と見るサード高橋周平とのポジション被り解消に着手する考えがあるということだ。
今、最優先はAクラスで終わること。良い数字を残すこと。各選手にキャリアハイ、できればタイトルを獲らせたい。チームの順位と個人の成績。それから生まれる自信が選手を変える。一方、選手を代える準備もぬかりなく、Aクラスさえ確定すれば、一気に未来型スタメンになる可能性もある。残り10試合。来季を左右する今の戦いから目が離せない。
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