高橋周平の「人生を変えた一発」
日々試されている選手は敏感だ。広島・中日10回戦。最終オーディションを前に高橋は新品のバットを手にした。
「波留さんのツテで筒香(嘉智)さんのバットをもらっていたんです。良いバッターのバットには興味があったので、取り寄せていました。自分のバットもしっくり来てなかったし、もう一か八か、これで行ってやれって」
鬼気迫る背番号3は第2打席にライト前ヒットを放つ。そして、運命の第3打席。
「ライトにホームランです。正直、あの1本がなかったら、今の僕はありません。人生を変えた一発です」
崖っぷちで飛び出した、捨てたはずの引っ張ったホームラン。高橋は翌日も筒香バットで4安打。何とか徳俵で踏ん張り、盛り返し、シーズンを完走した。2019年からは与田剛氏が監督に就任。指揮官は高橋をサードへ戻した。
「守備に関してはセカンドを守り切った1年が大きいです。セカンドは守備範囲も広いし、中継やカバーリング、ゲッツーと色んなプレーに絡む。それに比べたら、サードは楽です。深めのポジションの時はセカンドの感覚で守ることもあります」
一時は捨てたサードで2年連続ゴールデングラブ賞を受賞。さらに今は捨てたはずのホームランへの欲も出始めている。
「二桁は打ちたい。バットの形はそのままですが、重さを870グラム前後から900グラムに変える予定です」
レギュラー奪取というゴールに7年かけてたどり着いた高橋はその道のりで様々なものを捨ててきた。しかし、「得るは捨つるなり」である。彼は今、捨てたものを回収するプロ野球人生2度目の旅に出ている。レギュラー、サード、3割、ベストナイン、ゴールデングラブ賞を手に入れたキャプテンに今年欲しいものを聞いた。その答えは早く、短かった。
「優勝です」
必ず掴む。チームが10年手放しているリーグ制覇を。若きリーダーの鼻息は荒い。
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