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いつの間にか埼玉に溶け込んだ…ライオンズと西武鉄道の「幸福な関係」

文春野球コラム ウィンターリーグ2021

2021/03/06
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 午前3時のメットライフドームは、ちょっとした異世界の雰囲気だった。

 2020年12月19日未明。静まり返った道を、電車がトレーラーでやって来る。「陸送」と、専門用語では言うらしい。ゆっくりゆっくり、車両が工事用のゲート内に運び込まれていく。移動が終わったところで一旦仮眠を取り、11時頃から巨大なクレーンで車両が吊り上げられる様子を見た。30トンの車両が空中を移動し、「トレイン広場」となる展示場所に設置されていく。何とも壮大な光景を見られた貴重な1日だった。後にライオンズデザインにラッピングされる「101系」は、ついこの間まで西武多摩湖線を走っていた車両で、車内の吊り広告までそのまま残っていた。

©HISATO

ライオンズと鉄道との密接な関係

 特別鉄道ファンではないけれど、電車に乗るのは好きだった。埼玉で生まれ埼玉で育った自分が「電車」と言ったらJR(国鉄か)。その後最寄り駅が西武線沿線になってから、もう20年以上になる。シーズン中は改札の中に西武の試合経過が張り出され、池袋まで行けば、柱が西武の選手で埋め尽くされている。選手のラッピング電車もあって、ライオンズ命名70周年記念ラッピング車両「L-Train」に出会った時は、松坂や秋山に嬉々としてスマホを向け、清原もいたらなぁと思ったりもした。

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土砂崩れによる事故からも復活。強運の車両が象徴 「L-train101」(球団提供)

 今のご近所には、西武線の車掌さんが住んでいて、一家は当然のようにライオンズファンだ。子供たちが小さい時は、一緒に西武ドームへ出かけたこともある。終点の西武球場前駅まで電車に乗っていき、改札を出た瞬間目に飛び込んでくるドーム。そんな感動を味わえるのは、やはりこの駅が一番ではないだろうか。源田壮亮の車掌が似合い過ぎるとか、メヒアは電車通勤だとか、栗山巧とコラボした特別列車のツアーとか、ライオンズはやはり鉄道と密着した話題が多い。

いつの間にか埼玉に溶け込んだライオンズ

 老朽化した施設もあり、メットライフドームエリアは3年に渡る大規模改修工事を行った。旧若獅子寮と室内練習場が、新若獅子寮とライオンズトレーニングセンターに生まれ変わった。手で掲示するスコアボードだった西武第二球場は、美麗なビジョンを持ったCAR3219フィールドとして新しくオープンしている。新しいデリ&カフェ、遊具のあるキッズパーク、新しいビアホールも出来、ラッピングトレインも展示される。メットライフドームエリア全体が、「ライオンズ」という大きな町になるかのようだ。

 埼玉で生まれ、埼玉で育った自分はいい年齢だから、ライオンズは最初よそから来た球団というイメージだった。何なら太平洋とかクラウンライターとかいう名前も記憶にある。でも、ふと気付くと、西武ライオンズは「埼玉西武ライオンズ」になっていた。飽きるほど見てきたマークが袖に付く「Saitamaユニフォーム」も登場した。埼玉県の県章。太陽のようなマークは16個の「勾玉」だ。「埼玉」の県名の由来は「幸魂(さきみたま)」とも言われ、「魂」は「珠」も意味する。円になった勾玉の表すのは「太陽」「発展」「情熱」「力強さ」……

 いつの間にか西武ライオンズは、すっかり埼玉に溶け込んでいた。他の地方に行って埼玉から来たと言えば、「じゃあ西武ファン?」と言われるようになった。ここまで「埼玉といえば西武」のイメージとなったことに、地域の人々の足となり続ける鉄道は、きっと無関係ではないのだろう。

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