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転機になった高橋周平の一言

 プロ3年目の今年、竜党の注目を集めているのが試合前に行われる円陣の声出しだ。キャンプ中から登場回数が増え、オープン戦以降はチーム内でも鉄板ネタになってきた。球団公式インスタグラムで3月18日に投稿された福留孝介、石橋康太両選手の1軍合流あいさつ動画では、2人に続いて「おざーす。ずっと合流している滝野です。よろしくお願いします」とまさかの乱入。先輩が「もう終わり?」と煽られると「終わりです、終わりです」とテンパり気味に言うほど見切り発車だったが、その分、目立ちまくっていた。

 さらに球団公式の“影響力”をフル活用。小林正人広報のスマホ越しに「僕のインスタもフォローしてください」とちゃっかり宣伝。滝野のフォロワー数は7000人を超えた。

©報知新聞社

 突然ですが、声出してもいいですか? と言わんばかりのグイグイさ。そんな2021年“ニュー滝野”の誕生には、入団時から慕う兄貴分の存在があった。開幕戦で声出しをした高橋周平である。

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 今年2月の沖縄キャンプ初日。ウォーミングアップ中、主将は唐突に「おい滝野、アホみたいに声出して目立てよ。他に何もないやろ」と言い放った。ぶっきらぼう。言葉だけなら素っ気ない。でも現実的で、ようやく花を咲かせた苦労人の高橋周らしい滝野への“愛のムチ”だった。

「周平さんからそうやって言ってもらって、ハッとした。もちろん大人数の前でやるのは恥ずかしい。でもやり続けるうちに、他の先輩もそういう風に見てくれるようになった。1、2年目は自分のことに必死で余裕がなかったけど、今年はそこでチームに溶け込めた。それがキャンプ、オープン戦、そして開幕1軍にいることができた理由かもしれない」

 高橋周平は新人のときから可愛がってくれた。ルーキーでは唯一の1軍キャンプだった19年は宿舎で同部屋になり、野球のことも、私生活のこともたくさん話をした。「きっと周平さんも色々と苦労してレギュラーをつかんだ。活躍して恩返ししないと」。

 恩返ししたいのは先輩だけじゃない。滝野は今年から奈良・桜井市に本社を置く「アトムズ」から用具提供を受けている。元々は2019年から同社のグラブを使い始めたのがきっかけ。グラブ制作がメインの会社だが、アトムズ担当者の努力でバットやスパイクなど用具一式を用意し、伸び盛りの滝野を後押ししてくれることになった。同社では初めてとなるプロ野球選手への本格的なサポート。「こんな僕にそこまでしてくれる。まだ活躍していないけど、いずれたくさん試合に出て打ってアトムズの名前を広めたい。アトムズを使ってくれる人が増えてほしい」ーー滝野はこんなささやかな夢も教えてくれた。

 声出しで見つけた自分の居場所。でも毎日、実力不足を痛感する瞬間は次から次にやってくる。見ている方は冷や冷やするプレーもある。だが、その分ドキドキするプレーも滝野にはたくさんある。昨年10月24日、神宮でヤクルト・小川泰弘から放ったプロ初安打は、新国立競技場から演出の花火が奇跡的なタイミングで上がり、1塁ベース上でまさかの祝福も受けた“もってる男”。好きな言葉は「前向き」。何度転んでも、立ち上がる。

橋本侑樹投手と ©報知新聞社

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