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もう気遣いなんていらない――杉浦稔大投手とファンの関係性が変わった理由

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/04/29
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ファンと杉浦投手の関係性は絶対的に変わった

 チームが杉浦投手を大切にすればするほど、ファンの思いも並行した。大きく失点したとしても、「怪我明けだし」「まだまだ本来の姿ではないし」と、何か言葉を探して、彼を責めるようなことはなかった。

 オフのインタビューでも「いまの肘の状態は?」から入り、「来年はどの程度までをイメージしていますか?」と聞く。「早くチームに貢献できるようになりたい」というフレーズを聞いて、彼自身もまだ少しチームに遠慮しているように受けとれた。これが3年続いたのだ。

 ファンはずっと距離を保ち、壊れないように見つめてきた。一度は北海道から送り出した選手が傷を負って戻ってきた。いまはそっと見守らなければ……そんな思いだった。そして彼は応えてくれた、怪我の経験を糧にもっと強くなった姿を見せてくれたのだ。

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 去年はようやくチームも本人も体を気にせずに投げた年だった。7勝、試合数が通常であればもっと勝っていただろう。このまま先発としてキャリアを積むのかと思っていたら、終盤からは抑え起用、今季からは本格的に勝ち試合を締めるのは杉浦投手となった。ああ、この手があったのかと思った。彼の制球力と力強い球は短いイニングでも光るのかとわくわくした。

 ファンと杉浦投手の関係性は絶対的に変わった。もう気遣うことなく思い切り頼っていい。抑えというポジションはチームの信頼の象徴だ。

 あの日、杉浦投手がサヨナラホームランを打たれた時、どうしてこんなことになるのかと目を疑ったし、うなだれる杉浦投手と同じに自然と自分も同じポーズをとっていた。一緒に戦っていた。もう心配なんて欠片もなくなっていた。ここから先の杉浦投手がどこで投げようとどんなスタイルになろうと、それはファイターズでの変化であって、自分たちはもう同じ道を歩いている。

 サインをのぞき込み頷く時の少し微笑んでるように見える杉浦投手の表情が好きだ。大丈夫、と思わせてくれる。いい時にしか寄り添わない関係に本物の信頼は生まれない。

 ほら、またひとつ私たちは強くなった。

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