大和選手の移籍、田代コーチの復帰。すべては伏線……なのか?
この本が発刊されたのは2018年ですが、この年のメッセンジャー投手はとにかくすごかった。それも、主に横浜方面で。
ベイスターズ戦に7戦先発して6勝0敗。うち横浜スタジアムでは圧巻の4戦全勝。失点はたったの2。まさに無双。ちなみにこの年のメッセンジャー投手の通算成績は11勝7敗なので、実に半分以上の勝利をベイスターズから奪っていることになります。
そして、ばったばったとベイの選手たちをなぎ倒していくメッセンジャー投手の姿に、私の頭の中にはある妄想が膨らんでいったのです。
メッセがここまで活躍できるのはやはり「家系ラーメン」のおかげなのではないか。
ということは、横浜こそが彼が最大のパフォーマンスを出せる場所であるはず。
いずれ、メッセンジャーは横浜に来てくれるのではないか。
今年のこの好投は、「いずれベイに移籍したい」というメッセージなのではないか。メッセンジャーだけに。
さすがにバリバリの今はタイガースが手放すわけもないが、ちょっと力が衰えてきたら、可能性はあるのではないか。グリン、ソーサ、ソト(エンジェルベルトのほう)といった「他球団で実績を上げた外国人ピッチャー」の栄光(?)の系譜に、メッセンジャーも名を連ねてくれるのではないか、と。
そう考え始めると、すべてがその伏線のように思えてくるのです。
17年オフに大和選手がFAでベイスターズに移籍してきましたが、メッセンジャー投手と大和選手はお互い「ランディ・メッセンジャー」「前田大和」とフルネームで呼び合う仲だそうです。それが果たしてどういう仲なのかはイマイチよくわからないのですが、なんにしてもメッセンジャー投手が横浜に来る布石のように感じられてならなかったのです。
メッセンジャー投手が来日したとき、かつてマリナーズでチームメートだった城島健司選手が迎えたように、今度は大和選手が彼を出迎える番なのではないか、と。
そして2018年末の田代富雄コーチのベイスターズ復帰。
田代さんと言ったらラーメン、ラーメンと言ったら田代さん。
巷では「細川選手などの大砲候補を育てるため」と言われていましたが、私は「ラーメン好きな田代コーチの存在を、メッセを口説く切り札にするに違いない」と無駄な深読みをしたのです。
その日は小さく見えたメッセンジャー投手の背中
そうして迎えた2019年。この年はついにメッセンジャー投手が「日本人登録」になった年でもあります。
2019年5月25日。ハマスタに観戦に行ったその日の先発は、久々に生で見るメッセンジャー投手でした。
2回にベイスターズがノーアウト満塁のチャンスを作るも謎の無得点。5回にやっと1点を取ったものの、「今日も相変わらず攻めきれないなぁ」などと思っていたところ、なんと6回に突如打線が爆発し、一挙5点をもぎ取りメッセンジャー投手をノックアウト。
目を疑いました。あの大きなメッセンジャー投手の背中が、この日は小さく見えました。正直、「メッセンジャーも衰えたな」と思わざるを得ませんでした(「ベイスターズ打線が成長した」とは1ミリも思わないところが、横浜ファンの業の深さでしょう)。
それは本来、喜ばしい瞬間だったはずなのに、なぜか寂しさしか感じませんでした。
「さすがに30代も半ばを過ぎると、家系ラーメンは胃にもたれるようになってしまったのだろうか」といらぬ心配までする始末でした。
この年はなかなか調子が上がらず、7月には一時帰国して肩の治療に専念。しかし、帰国後も調子が戻ることはなく、2019年9月、メッセンジャー投手は引退を発表しました。
横浜に移籍してくることはなく、生涯(あくまで日本でですが)タイガースを貫きました。
宿敵ながら、本当に見事な引き際でした。
彼と同じ色のユニフォームを着て、応援するという夢はかないませんでした。
でも、ありがとう師匠。
あなたのおかげで、私は自分のラーメン道を貫くことができました。
これからはあなたのように、「モヤシ抜きで」と堂々と言おうと思います(二郎以外では)。
最後に、前述の書籍から、メッセンジャー師匠の「魂の名言」を紹介して、この原稿を終えたいと思います。
「トライの回数が増えれば増えるほど、おいしいラーメンに出会える可能性は高まる。いつだって貪欲でいたい。新しい店に飛び込む準備は、いつだってできているんだ」
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