たとえ望まぬ移籍でも、内海哲也が必要だった。
それから1週間後。
内海さんは、「あの試合ひとつでは終わらせない」という心ある采配によって、今度は本拠地メットライフドームのマウンドにいました。プロ2年目の岸潤一郎さん、同じくプロ2年目の柘植世那さんら若手野手による援護と、5回3失点粘りのピッチングで勝利投手の権利を手にすると、グラブを強く叩き、左腕を突き上げました。試合後のヒーローインタビューでは「感謝の気持ちを込めて、絶対勝つという気持ちでマウンドに上がりました」と語りました。前日に1軍初登板した、内海さんを慕うプロ3年目“同期入団”の渡邉勇太朗さんに対して「負けてられない」という粋な褒め言葉を贈りました。そして、ともにお立ち台に立った岸潤一郎さんと柘植世那さんの腕を高く掲げました。
監督でもコーチでもなく、かといってライバルでもなく、プロ野球の高みを知り、そこに「引き上げてくれそう」な先輩……思えばそれはライオンズに圧倒的に足りなく、ライオンズが求めて止まない存在です。内海さんとまったく同じしぐさを、翌々日6月12日の試合のヒーローインタビューで今度は栗山巧さんがやったとき、そのお立ち台の光景がピッタリと重なるのを見て、「戦力としてだけではなく、もっと得難いものを得るために、西武は内海さんがどうしても必要だったのだ」と、ようやくの申し開きができました。頭で思うのではなく、心から納得できました。リストに誰が並んでいたとしても、相手の気持ちがどうであろうと、補強ポイントはそこしかなかったじゃないかと。
あの2018年をもう一度やり直したとしたら――
きっと状況は変わらなかっただろうと思います。炭谷銀仁朗さんは西武から出ていったでしょうし、プロテクトリストを見て眩しく輝く内海哲也さんを西武は獲得したのだろうと思います。ただ、そうした望まぬ移籍が行なわれたとしても、再会を待ち望んだように組まれた巨人戦のオーダーと、巨人ファンにチカラを示した炭谷銀仁朗さんの一撃と、炭谷さんの移籍は不可避であったと納得できる森友哉さんの打棒と、勝ち負けつかずで終わった「優しい奇跡」のような試合とが、やはり両チームのファンの心を救ってくれたのだろうと思います。
そして、内海さんのために燃え、内海さんが高みに引き上げようとする若手たちの姿を見て、少しの申し訳なさを覚えつつも「だから、あなたが必要だったんです」と言えたのだろうと思います。いつか内海さんを巨人にお返しする日は来るのでしょうが、その日が来るまでどうか、マウンドから見るプロ野球の高みを若獅子たちに伝えて欲しいと思います。内海さんにとっては望まぬ移籍だったとしても、今のこの光景は西武がずっと望んでいたもの。
素晴らしい光景を見せてくれたことへの感謝とともに思います。
「もう一度2018年をやり直しても、内海哲也を獲るだろう」と。
埼玉西武ライオンズの内海哲也さんと、少しでも長く、素晴らしい日々を過ごせることを祈ります。
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