父の日に決勝ホームラン、お立ち台に上った父・川端慎吾

 6月20日、父の日──。デーゲームで行われた中日戦の7回裏に代打で登場し、価値ある決勝2ランでヤクルトを勝利に導いたのは、今や“代打の神様”の異名を取る川端慎吾だった。

「いやもう、本当に嬉しいです。久々にホームランを打ったので、いい感触でした、はい」

 およそ1年ぶりに上がる神宮のお立ち台で、2018年7月21日の中日戦(神宮)以来となる本塁打の感想を口にした川端は、この日が父の日であることに水を向けられると「朝から(息子に)『今日は打ってね』って言われたので、本当に打てて嬉しいですね」と、端正な顔に笑みを浮かべた。

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“燕のプリンス”と呼ばれ、万年青年のようにいつまでも爽やかさを失わない彼も33歳。「ホームランボールも返していただいたので、息子にプレゼントしたいと思います」とお立ち台で話す表情は、まさに父のそれだった。

 この日は、小学生になったばかりの長男が川端に贈った手紙も、イニング間にスーパーカラービジョンで紹介されていた。「父の日」のプレゼントに、川端はこれ以上ない形で応えたことになる。

 だが、その長男と同じぐらい、いや、共に過ごした年月を考えるなら、それ以上にこのホームランに歓喜したであろう人物がいる。川端の父、末吉(すえよし)さん(67歳)である。

代打で決勝2ランを放った川端慎吾

「最高の『父の日』のプレゼントになりました」

「最高の『父の日』のプレゼントになりました。ホンマによくここまで頑張ってくれて……。僕はあの子は、代打は無理やとずっと思ってたのに、気持ちの面での集中力というのもちょっと分かってきたのかな。難しいと思いますけどねぇ、代打は」

 軟式野球の選手として国体出場9回を誇り、現在は地元・大阪で中学生の硬式野球チーム「貝塚ヤング」の監督を務める末吉さんは、川端にとっては自他ともに認める“野球の師匠”である。その父はここ数年、息子をどんな思いで見ていたのか。

「もうケガばっかりなんでね。『ケガさえなけりゃ』ってファンの人も思ってくれてると思うんやけども、僕らも全く同じなんですよ。ケガさえなけりゃ、それなりの数字を残してくれるやろうっていうのはもう、ずっと思ってましたんでね」

 2014年から3年連続で打率3割をマークし、チームがセ・リーグ優勝を果たした2015年には首位打者、最多安打のタイトルを獲得した川端は、2017年のキャンプ中に腰椎椎間板ヘルニアを発症。そこからは腰痛との闘いが続く。

「首位打者を獲って、これからやっちゅう時にね。本人が一番、辛かったと思うんですけど、僕らにはあんまり言わないんですよ。僕はテレビで見てても、仕草ですぐ『あ、また腰を気にしてるな』とか、そういうところばっかり見てしまうんでね。もう体のことばっかり心配してたんですけど、本人は『なんとか大丈夫や』っていつも言うてました。だからそこまで悪いとは思ってなかったんで、まさかヘルニアってね……。全然、そこまで僕は感じてなかったんですよ」

 2017年8月にヘルニアの手術を受け、翌2018年は97試合に出場するなど復活ののろしを上げたかに見えたが、今度は別の症状に苦しむ。2019年は一軍定着後では自己ワーストの打率.164に終わると、川端はもう一度、腰の手術を決断する。

「試合が終わった後はもう本当に立ってられへんぐらいとか、朝も起きれない痛さみたいなことは、後から聞きました。『靴下も履かれへんかった』って言うてましたから、僕らも『ええー!』って。このコロナの前からでも、ちょっと会う機会が少なくなってたんで、あんまり心配かけんとこと思うてたんやろうけど。だから本人も、これ(昨年の手術)でダメだったらもう諦めるぐらいの気持ちだったんじゃないですかね。最後の勝負みたいに思うてたんやと思います」