例えば先日の記事で述べた「杉本裕太郎の300打席」の件でも、あの中嶋がただ漫然と杉本に300打席を与え続けて放置していたはずがない。気がついた課題をその都度、杉本に伝え対話し続けたはずだ。起用し続ける中で失敗と反省を繰り返し課題を克服する努力をさせることで選手は成長していく。
捕手のリード改善の件などはテレビ観戦しているだけでも中嶋の苦労が十分理解できる。旧体制時代のコース偏重の悪癖が抜けない若月健矢に対して試合中、試合後に怒りの表情で対話を繰り返す中嶋の姿を何度見たことか。捕手のリードに関しては、投手に多大な迷惑がかかるので若月を先発起用するわけにはいかなかったのだろう。多彩なリードができるベテランの伏見寅威と共に一軍ベンチに置き続けたのが中嶋の若月への期待の現れだと思う。若月も苦しい中で必死に学び、7月9日のソフトバンク戦では久々に山本由伸と組んで先発出場。かつてあれほどうまく使えなかった山本のカーブを効果的に配球する若月の奥行きあるリードには目を見張らされた。
チーム全体の打線の粘りの件なども中嶋たち首脳陣の徹底した意識付けの力を感じる。昨年8月まであれほど淡泊だった打線がある日突然選手全員の意識が自発的に変わることなどあり得ないからだ。かつて名将・野村克也がそうであったように、中嶋聡を中心とする首脳陣はことあるごとにミーティングや選手個人との対話を続けていることは間違いない。
その証拠はオリックスファンなら全員が目撃しているであろうあの「手帳」だ。中嶋聡は試合中に信じられないくらいの頻度で手帳を開きメモを書き込む。そして試合中であろうとベンチで選手と対話を繰り返す。他球団の監督であそこまで頻繁にメモを取る監督など見たことがない。あれこそが中嶋聡の卓越した「対話力」を証明している。
中嶋聡が担うオリックス復活へのチャレンジはまだ始まったばかり
現在のプロ野球界で「名将」と言われる監督もめっきり減ってしまったが、プロ野球の歴史に名を残す名将にも様々なタイプがいる。巨大戦力に恵まれた球団で強さを維持することに長けた指揮官もいれば、保有する戦力を使い潰して優勝は成し遂げるがその後のチームをガタガタにしてしまう名将もいる。その中でやはり一番難しく偉大なのは、西本幸雄や野村克也のようにチームを土台から変革し弱小球団を半恒久的な強豪チームに育て上げる名将であろう。
僕は中嶋聡が目指しているのはまさにそこなのではないかと考えている。自らが愛する古巣オリックス・バファローズをもう一度恒久的な強豪チームに。そのための5年10年のビジョンが中嶋の脳内には見えており、そこにいたる遠い遠い道のりを日々悪戦苦闘しながら一歩一歩進んでいる。背番号78の後ろ姿からそんな思いを感じるのだ。
ただ、20年を超える低迷でズタズタになった12球団最弱最低のチームであるオリックスには膨大な課題が山積みとなっている。そのひとつひとつを中嶋は力強く打破し続けているが、それでも課題山積は変わらない。例えば野手陣に関して言えば球団の現有戦力を全て一軍に抜擢して何とか戦っているが、二軍の余剰戦力はほぼ皆無であり(大下誠一郎がいるくらいか)20年以上大型野手育成を怠ったツケが回っている。また打線全体のレベルアップに関してもだいぶマシにはなってきたが、一流投手相手に球数を投げさせて5回までにマウンドから引きずり下ろす技術に関してはロッテ、楽天、ソフトバンク、西武に遠く及ばない。
投手陣でも「9回の悪夢」が払拭されておらず、ベテラン平野佳寿の後継者は不在のままだ。(余談になるがリリーフエースに関しては素質や技術もさることながら「魂の強さ」こそが求められるポジションなので個人的には澤田圭佑、次点で山岡泰輔を抜擢すべきと考えているが今回は詳細を省く)
要するに中嶋聡が担うオリックス復活へのチャレンジはまだ始まったばかりなのだ。僕たちファンも球団首脳陣も救世主・中嶋聡が紡ぎ出すであろうミラクルロードを信じて、今はただ選手たちの躍動と失敗を暖かい目で見守ろうではないですか。
長々と書いてきたが、長年辛酸を舐めてきた僕らオリックスファンにとってコロナ下にも関わらず、信じられないほど毎日が楽しく充実しているのは新生中嶋オリックスのおかげであることは間違いない。そのことに一ファンとして感謝しかない。ひとつだけ言えることは今年最終的にオリックスが「アレ」できても「アレ」できなくても、中嶋監督にこのチームを10年率いて欲しいという思いは変わらないということだ。
僕は中嶋聡が現代のプロ野球界随一の名将たり得る資質を持っていると信じている。そんな類い稀な才能を手放しては二度とオリックス復活は望めない。2020年代は稀代の名将・中嶋聡率いるオリックス・バファローズがプロ野球界を牽引する。そんな夢をオリックスファン全員で見たい今日この頃なのである。
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