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実は“熱血漢”高津臣吾監督のルーツ

 ベンチと言えば、高津臣吾監督にも僕は注目しています。9月13日のバンテリンドームでの中日戦の「判定を巡る騒動」のときも監督は冷静に、高ぶるベンチを諌めていましたよね。でも……実は高津監督は広島県立の広島工業高校、通称「県工」から亜細亜大学に進まれた方。野球に詳しい方ならご存知だと思いますが、当時はトップクラスの「厳しい指導」で有名だった学校の出身です。僕も高校時代、高津さんの恩師がのちに就任された学校と対戦経験がありますが、相手ベンチの“迫力”は、それはもう縮みあがるほどでした。

 そんな高津さんがあの場面で……きっと心の中は煮えたぎっていたと思います。監督には学生時代に培われた「熱い血」が絶対に流れていると思うんです。

 僕が引退を決めた19年、ハムストリングスのケガでリハビリ中だったとき、こんなことがありました。ファームの試合前の練習で、僕は足が万全ではなかったものの、2塁ベースの後方で離塁のタイミングを計りながら軽く走塁練習をしていました。そのとき、ある若手選手が足首を捻ったと、自ら申し出て練習から早々と離脱したんです。

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 すると、当時2軍監督だった高津さんは「三輪、今日行ける?」とバッティングケージの後ろから大声で聞いてきます。「監督、当たり前じゃないですか。できることは一生懸命やります!」とすかさず返すと「やっぱそうだよね」とおっしゃいました。

 僕が全力で走れない、その時点では戦力にはならないことは十分にわかっているはずなのに、あえて僕に聞いてきた。きっと監督は気持ちを見せてほしかったんだと思います。自分の判断で練習をやめるということがいい悪いという意味では決してないですが、選手がいつでも闘う気持ちでいるか、それを監督は僕にあえて聞くことで確かめたのでしょう。

 だから、監督はバンテリンドームのあの場面で、試合終了が審判から告げられても、ベンチ内の選手、首脳陣、スタッフが誰一人引き上げないという、闘う気持ちを確認できたから、ベンチの前に出て「パン!」と手を打って「切り替えよう!」と言って引き上げさせたのでしょう。

 終わったことをああでもないこうでもないと言っても仕方ない。監督はファームの選手に向かって事あるごとにおっしゃってました。「失敗はする、じゃあ次はどうしたらいいのか考えてくれ。失敗をどうこう言うつもりはないんだ」と。

高津臣吾監督

「何かあったら僕が出ていく」の意味

 監督は「次、成功させろよ」とは絶対に言わないんです。「失敗は繰り返すことはわかってる。それを改善するために、少しでもうまくなれるよう練習しよう」と。僕はその言葉に救われました。他者から追い詰められることなくプレーすることができる、それなら思いきってやろうという気にさせてくれましたから。

「何かあったら僕が出ていく」という公式YouTubeで公開されたミーティング動画での発言もそう。俺が責任をとるからあとはノビノビやってくれという意味だと思います。

 実は僕も今、スワローズジュニアチームのコーチをしているんですが、「失敗してもいいよ、技術的な失敗は責めない。だけどそのとき一生懸命やっていたかどうかが大事なんだよ」と高津さんの受け売りのようなことを堂々と言っています。

控え選手の真価が問われるシーズン最終盤

 さて、1試合の重みがぐっと増すシーズン終盤は選手の役割分担が明確になってきます。代打、ピンチバント、代走、守備固めと控え選手の真価も問われてきます。

 以前、福地コーチが僕や控え選手に向かってこんなことをおっしゃいました。

「俺たち控えはミスができない。取り返す場所がないから。一回しかチャンスはないからミスはできないんだ」と。9月12日のバンテリンドームの中日戦、守備固めで出た渡邉大樹が得点に絡むミスをしました。僕も守備固めで出てミスをしたことがあるだけに、渡邉の気持ちは痛いほどわかります。でも高津監督は渡邉を責めていないはず。その後も起用しているのが何よりの証拠。どう取り返すか、次どうするかを考える姿を見守っているはずです。

 そんな彼を含む、一打一球に賭けるベンチスタートの選手がいい意味で期待を裏切るような「とんでもないこと」をやってのけ、勝利に導くことを僕は期待してやみません。

 最後に我が友、坂口智隆へ。9月11日横浜戦の左手へのデッドボールにはヒヤッとしたけど、何事もなくて安心しました。坂口はプロ19年のキャリアで初めての優勝のチャンス。今年は満足に活躍できず、しかも今は控えで、一打に賭けるポジションかもしれないけど、1500本安打を打った経験は何物にも代えがたい。僕にはあなたが打って、優勝を決める映像がもう見えています。

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