何がキューバ砲の復調につながったのか。デスパイネ本人は「五輪予選から帰ってきて怪我があったけど、その後しっかり治すことができた。試合に向けての準備も、以前よりも出来るようになった。それが成績につながっていると思う」と自己分析する。
なにより、成績が上がってきたこともあるかもしれないが、ここ最近はデスパイネがとにかく明るい。
練習中も笑顔、笑顔、笑顔。ホーム試合ではフリー打撃回りで最終組を打ち、栗原とペアを組む。その栗原と「ラスト1球」はホームラン競争だ。勝った負けたで大はしゃぎをする。そんな中、松田宣浩がデスパイネを「野手キャプテン」に指名した。
「マッチがキャプテン、キャプテンって呼び始めたんだ。彼は明るいキャラだし、チームの雰囲気づくりで呼び始めたんだと思う(笑)」
この明るい雰囲気、少し前のホークスにはどこか足りなかったものだった
工藤監督もデスパイネのことは常に気にかけている。現在の一軍には外国人野手は彼だけ。その寂しさを紛らわせようとしているのか、練習中に声をかけて肩をモミモミするのが日課だ。デスパイネもそれに笑って応じる。
この明るい雰囲気、少し前のホークスにはどこか足りなかったものだった。
柳田が打ち、栗原も打って、デスパイネが得点源となる。先発は最低6回までをどうにか抑えきって、信頼するリリーフ陣にバトンをつなぐ。岩嵜、モイネロ、森でしのいで勝つ。何かが起こりそうなペナントレース最終盤。その気運は確かに高まってきた。
工藤監督は“それ”を見据えるように、頷きながら今後への戦いへの思いを言葉にした。
「とにかく選手には勝敗うんぬんよりも自分の力を100%出せるようにと伝えている。ここ(終盤戦)で、より力を出さないといけないのはしんどいと思いますけど、他のチームはもっとしんどいんだと。そう思ってやることが次の勇気につながると思う。しんどいのはお互いさま。野球は常に明るく元気に、楽しく真剣にと選手には言い続けているので。1試合1試合、一戦必勝で頑張ってほしいです」
9月21日時点で首位までの差は今季最大「9」も引き離されていたのが、わずか10日足らずでみるみる縮まった。夏場には、元気印の松田宣浩でさえ「今は4位なりのチームのテンション」と話していたのが、9月は同じ順位だとしてもまるで変わった。9月ラストゲームは残念ながら7−8で痛恨の逆転負けを喫して今季初の5連勝は逃したが、試合中盤に見せた打線の粘りは現在の「勢い」を感じさせるものだった。
ホークスはそう遠くない昔に、奇跡の大逆転優勝を成し遂げたことがある。
2010年、ペナント残り6試合の時点でまだ2位。首位ライオンズにはマジック4が点灯していた中で、直接対決で3連勝を果たしたところからそのドラマは始まった。当時4番打者だった小久保裕紀現・ヘッドコーチの逆転サヨナラ本塁打。馬原孝浩と現・巨人の中島宏之との10分間以上にわたる12球の死闘など、未だに語り継がれる名シーンが生まれたのはこの時だった。
大きな奇跡を生むために必要なのは、選手も首脳陣もファンもみんなの心がガっと燃え上がって思わず武者震いするような劇的な“何か”をその道程で積み重ねていくこと。
その“何か”が起こるとすれば、明日10月2日のバファローズ戦。この試合が天王山になるのではなかろうか。
相手先発はおそらく山本由伸だ。個人12連勝でここまで15勝、防御率1.50、174奪三振とし投手の主要タイトル3冠が確実視されている右腕に、ホークスは立ち向かう。今季対戦は過去5度あった。4月14日の試合でホークスが勝利したが、その他は4敗を喫しており対戦防御率は0.94となっている。
難攻不落の大投手。まさに逆境だ。でも、だからこそ乗り越えることに価値がある。勝てば、とてつもないリターンを得ることができる。2010年はまさしくそうだった。
また、「10・2」といえば、2014年に涙、涙の劇的リーグ制覇を果たした日だ。あの時もバファローズ戦だった。こんな偶然すら、今はホークスに味方をしてくれている。
いざ、ペナントの行方が決まる決戦の10月。上昇気流をつかまえて翼を大きく広げた鷹が、この2021年、再び後世に残る伝説を生もうとしている。
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