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孫のためにチームを探し…広島・栗林良吏の“ファン第1号”見守り続けたおばあちゃんの物語

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/10/03
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「良吏のおかげでみんなが一つ屋根の下に集まったぞ」

 東京五輪の準決勝・韓国戦の試合後には、栗林のスマホに父・秀樹さんから約1分間の動画が送られてきた。家族が五輪の試合をテレビ観戦している映像で、「メダル獲得おめでとう」と動画を通して祝福してくれた。その動画の端っこには、手を合わせながら静かに祈り、勝利の瞬間にはホッとした表情で胸をなで下ろす祖母の姿も映っていた。

 動画とともに父からのメッセージも添えられていた。「良吏のおかげでみんなが一つ屋根の下に集まったぞ」。妻・沙耶さんも栗林の実家のある名古屋に向かい、兄姉の家族も集まった。家族が初めて全員そろっての試合観戦。栗林家にとっても忘れられない一日になった。

 準決勝は兄・勇太さんの自宅に集まったが、決勝戦は祖母の家に集合場所を変更。再び家族全員で見守ることにした。登板は2点優勢の9回。2死一塁から最後の打者を二ゴロに打ち取ると、栗林めがけて侍戦士が笑顔で集まってきた。そして、誰よりも高くマウンド上で抱き上げられる姿を見つめながら、栗林家も名古屋から拍手をして祝福したのだった。

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 中学時代に所属した「藤華クラブ」の有野伸一総監督は、入団直後の新1年生に必ず聞く質問がある。「プロ野球選手になりたい人?」。毎年、全員が手を挙げると言う。当時の栗林少年もその一人だった。誰もその夢が本当にかなうとは思っていなかったかもしれない。実際に中学時代はエースでも4番でもなかった。それでも、栗林の野球へのひたむきな姿勢や情熱を間近で見てきた祖母が、その可能性を最初に信じてくれたのだ。

 祖母が一人で応援し続けているうちにファンも増え始めて、プロ野球選手となり、そして東京五輪で日本中から応援される存在になった。こんなに立派に育ったのだ。孫が誇らしくて仕方ないに違いない。どうぞ、これでもかと言うぐらいに胸を張ってください。おばあちゃんが、記念すべきファン1号です。

 河合洋介(スポーツニッポン)

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