今回のテーマは西武ライオンズの2021年ドラフト会議総括。普段、アマチュア野球をメインのフィールドに活動している自分にとってドラフト会議は1年で最も大きいイベントであり、この日に向けて全国の球場を渡り歩いていると言っても過言ではない。
いきなり個人的な話になって恐縮だが、毎年支配下で指名される選手全員のプレーを現場で見ておくということを目標にしており、今年は楽天4位の泰勝利(神村学園)とソフトバンク5位の大竹風雅(東北福祉大)以外はチェックすることができた。
西武が指名した選手についても育成3位の菅井信也(山本学園)以外は球場でそのプレーぶりを確認することができたが、その指名は“完璧”と言ってよいくらい素晴らしいものだった。
“完璧”なドラフト 西武の指名を総括
まず大きいのが隅田知一郎(西日本工大)、佐藤隼輔(筑波大)という大学球界を代表する左投手を揃って指名することができた点だ。隅田は最速150キロという数字が先行して紹介されることが多いが、その特長はむしろスピードよりも変化球とコントロールにある。スライダーはスピード、縦横の変化にバリエーションがあり、ツーシーム、フォークとのコンビネーションは見事という他ない。更に110キロ台のスピードを落としたチェンジアップで緩急を使うこともできる。左投手が苦手にしていることが多いクイックの速さも十分で、投げる以外のプレーも高レベルだ。
一方の佐藤も総合力では隅田に引けを取らない。フォームは早川隆久(楽天)に少し雰囲気が似ており、それほど力を入れていないように見えてもコンスタントに150キロに迫るスピードをマークする。スライダー、チェンジアップも打者の手元で鋭く変化し、奪三振率の高さも魅力だ。最後のシーズンにわき腹を痛めていなければ1位で競合した可能性も高い。そういう意味では佐藤の怪我も西武にとっては幸運だったとも言えるだろう。
西日本工大、筑波大ともに頻繁にプロへ選手を輩出するような大学ではなく、そのようなチームから出てくる本格派投手の場合スピードはあるもののコントロールや変化球は課題というケースが多いが、隅田と佐藤に関してはそのような不安は全く感じられない。西武の投手陣は完全に左投手不足であり、チャンスが多いという点でも2人にとっては追い風となるだろう。
この2人だけでも満点に近いドラフトと言えるが、更に驚いたのが3位で古賀悠斗(中央大)を指名できた点だ。古賀は大学生ナンバーワンの呼び声高い強肩強打のキャッチャーで、巡り合わせによっては1位指名も考えられた選手である。西武の捕手事情を見ると森友哉が不動の正捕手となっているが、若手にそもそも選手が少なく、更に森もFAで流出の可能性がある。その弱点を補う選手として古賀は最適と言えるだろう。
西武の指名をより素晴らしいものにした下位指名選手
そして西武の指名をより素晴らしいものにしたのが4位以下の3人である。
4位で指名した羽田慎之介(八王子)は“和製ランディ・ジョンソン”の異名をとる190㎝の超大型サウスポー。体格だけでなく、サイド気味のスリークォーターから145キロ以上の威力抜群のストレートを投げ込むスタイルもランディ・ジョンソンによく似ている。細かい課題は色々あるものの、ストライクをとるのに苦労するようなことはなく、一定のコントロールと器用さも備えているのは心強い。
5位の黒田将矢(八戸工大一)も188㎝の大型右腕。外野手と兼任ながら、躍動感溢れるフォームから投げ込むストレートはコンスタントに140キロ台中盤をマークし、ボールの角度も申し分ない。羽田、黒田ともにスケールの大きさという点では今年の高校生のトップクラスであり、若手投手陣の底上げという意味ではピッタリの人材だった。
6位で指名した中山誠吾(白鴎大)は190㎝、95㎏の大型内野手。確実性には課題が残るものの、芯でとらえた時の打球の速さ、飛距離は圧倒的なものがあり、スイングの形にも目立った悪い癖が見られない。これだけの大型でショートもこなせる器用さも魅力だ。典型的な0か100かというタイプだが、強打者の育成に定評のある西武であれば将来の中軸へと成長することも考えられるだろう。