2021年11月12日、午後8時32分。
青木宣親選手が放った打球がレフト線に弾んだその瞬間、僕を含めた全国のスワローズファンの血肉が沸き踊りました。
今シーズンの「チームスワローズ」が集約されたこの一打。
そこには、しっかりとした伏線が用意されていたのではないかと思います。
神宮球場三塁ベンチ側から見える一塁側ベンチの空気
11月10日、CSファイナルステージ第1戦。
このコラムで何度も書かせてもらっていますが、何度でも書きます。
スワローズの今季の強さの原動力。
それは、口先だけではなく真にチーム全員で戦っているという事です。
ベンチを見ていれば、僕達素人が見ていてもハッキリとそれが分かる。
今季ほど三塁ベンチ側から見るスワローズの野球が楽しいシーズンはない。
本当に、ない。
この日も三塁側バックネット裏からの観戦でしたが、心の高揚と感動が止まらなかった。
奥川恭伸投手が98球でのプロ初完封。
アメリカで通算355勝を挙げ殿堂入りし、《精密機械》と呼ばれたグレッグ・マダックス投手が現役時代に13度も100球未満での完封をした事からこれを【マダックス】と呼んでいますが、この名称は15年後ぐらいには【オクガワ】と変わっているでしょう。
そう思わせてくれるぐらいの圧巻のピッチング。
もちろん彼のピッチングに感動しないスワローズファンはいなかったと思いますし、僕も感動しました。
しかし、実はこの感動に至るまでのプロセスこそが今季のスワローズの強さの象徴であり原動力となっているんです。
奥川完封劇の序章
そのプロセスは1回裏から始まっていました。
先頭の塩見泰隆がチームを勢いづける二塁打で出塁し、打席には青木宣親。
ランナーを進めて最低でも一死三塁のシチュエーションを作りたいこの場面。
2ボール1ストライクからその4球目。
巨人・山口俊の投げた球は外に逃げていくようなフォークボール。
自信を持って見逃しましたが、球審名幸の判定はストライク。
納得のいかない表情を見せる青木選手。
そして次のボールは、前の球と同じような外に逃げていくフォークボール。
もし前の判定がボールだったとしたら、青木のレベルであれば間違いなく振っていなかった球。
もし青木が個人の感覚を優先して悠々と見送ったところでストライクと言われれば、見逃し三振になってしまう。
そうなれば、せっかくの押せ押せムードが一気に萎んでしまう。
この場面、青木は自分の中では絶対にボールだと思いながらバットを出したんだと思います。
いや、そうにしか見えなかった。
【絶対に塩見を三塁に進めるんだ】というその気持ち。
結果はボテボテの投ゴロ。
大きな拍手で青木を迎えたベンチの川端慎吾、そして嶋基宏
その時、青木の悔しい気持ちを分かっているかのようにベンチから一番に手を叩いて迎え入れたのが川端慎吾でした。
そして、彼に呼応するように嶋基宏が、オスナが、そして他の選手達が青木をねぎらいに行く。
この一連の流れがあったからこそ、山田哲人も自分で決めに行く事をせずに四球を選べるし、4番の村上宗隆はそのミスタースワローズの二人の想いを力に変えて初球から思いっきりバットを振っていける強靭なメンタルを持っている。
「俺が絶対に塩見をホームに返してやる」という強い想い
完全に打ち取られたフライでしたが、【俺が絶対に塩見をホームに返してやる】という強い想いが乗り移ったかのようにショート坂本のかなり後方まで伸びていき、捕球態勢が悪いと見るやタッチアップで一気にホームに帰ってきた塩見泰隆の好走塁。
この1点はベンチ含めたチームスワローズの全員野球が浸透している事を如実に現してくれたシーンでした。
その後、1点が入った事で余計な力が抜けたサンタナの見事な2ランホームラン。
「これぞ助っ人」という大仕事でした。
メジャー帰りの青木選手の献身的なプレー。
それを一番理解しているベンチのベテラン勢とその姿を見ている他の選手達。
それがあるからオスナ、サンタナの両外国人も自分本位にならない。
あの【ボテボテの投ゴロ】こそが、今季のスワローズの強さの象徴なんです。