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帰ってきた男・ビッグボス新庄剛志とSHINJOの話

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/11/13

 という訳でこの2週間ばかり、ファイターズの新監督がお騒がせしております。CSファイナルステージをさしおいて「週刊ベースボール」の表紙にはなるし、来る日も来る日も、どのスポーツ新聞もどのスポーツニュースも新庄剛志が幅をきかせている有様。いや、スポーツニュースだけにとどまらず、通常ニュースやワイドショーにまではみ出してます。ファイターズファンとしては秋季キャンプの映像を連日観ることができたりして単純に嬉しいのですけれども、まさかここまで大注目されるとは、そしてこんなに毎日それが続くとは、想像以上だったなあ。

新庄剛志 ©文藝春秋

ファイターズの大スターSHINJOが大好きだったからこその不安

 新監督候補としての第一報から正式発表までの騒がれ方は、ちょっと既視感がありました。最初に名前が出た時点では「えー、まっさかあ」という反応、それからどうやら本当らしいということになって、「現役引退してからコーチ経験もなしにこんなに長いこと経ってる人を!?」と驚き呆れる声多数。10年前、栗山英樹就任の時もこんな感じだったなと思ったんです。かく申す私はといえば、10年前も今回も、まずはやっぱり相当びっくりしたものの、「本当に就任要請するからには、ちゃんと理由も根拠もあるということだから」と考えることにしておりました。私と違って球団フロントは、栗山英樹も新庄剛志も直接どんな人だか知った上でのことである訳ですし。

 ただ、10年前とは違う懸念というか心配というか、小さな不安の種のようなものはありました。新庄剛志がかつてはファイターズの大スターSHINJOで、自分が彼を大好きだったからこその不安です。

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 現役引退後の彼について、私はほぼ何も知らない状態で15年間を過ごしておりました。遠くバリ島で気ままに暮らしているとか何か整形手術したらしいとか、ニュースは折々に入ってきますけれども、「風の噂に聞きましたが」というくらいの感じです。そしてそんな近況に触れる度に、「野球、ほんとにやめちゃってるんだなあ」と改めて寂しさを覚える繰り返しでした。

 引退直後にはむしろ、解説者にも指導者にもならずにいることで、「偉そうなプロ野球OB」になった姿は見なくてすむんだなんて思ったりしたんです。華やかで明るくて格好よかったSHINJOのイメージを本人自ら壊してしまうようなことは万が一にも起こらないんだと(プロ野球OBに一体どういうイメージ持ってたんだ私)。

 でも何年か経つうちに、だんだん寂しくなってきたのでした。ネット記事で見かける写真は昔とは違う顔で、そこにいるのは何だかよく判らないけどとにかく有名人だということになってるどこかの新庄剛志さんという人。あの3年間の彼の姿は今の日々からは切り離された夢の中の出来事ででもあるかのようで、今の彼のことを積極的に知りたいとは思わなくなっておりました。知れば必ずSHINJOの勇姿を思い出しますし、それは昔の夢なのですから。

 そうしたら。何かいきなりトライアウト受けるなんて言い出して。また野球選手になりたいって言い出して。え? え? 今から本当に?

 それで久々に彼を注視、した訳ではありませんでした、まだ。見てはいたんです。でも横目です。直視しないようにしてたんです。しかし監督就任という話になるともう、横目で、という訳にはいきません。ファイターズの監督です。15年ぶりに新庄剛志を、直視しなければなりません。

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